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経済
アベノミクス正念場 所得増、物価上昇に追いつけず 強まる「悪いインフレ」の懸念
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民間企業の平均給与推移=2000年~2013年 26日に発表された8月の全国消費者物価指数は、15カ月連続の物価上昇となった。民間の給与水準は、上向いているとはいえ、物価上昇ペースには追いついていない。景気改善がともなわず、ただ物価が上がるだけの「悪いインフレ」の影がちらつく。
総務省が26日発表した8月の全国消費者物価指数(2010年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が前年同月比3.1%上昇の103.5と15カ月連続でプラスとなった。消費税増税の影響を除く上昇幅は1.1%で6、7月の1.3%から0.2ポイント縮小。エネルギー価格の上昇幅が縮んだ影響を受けた。
8月は調査対象524品目のうち前年同月より上昇したのが466品目と7月の464品目を上回った。夏休みで観光需要の大きかった宿泊料は6.2%、エアコンは12.5%上昇。一方、エネルギー価格の上昇幅は7月の8.8%から6.8%に縮小し、特にガソリンは原油価格の下落などで10.4%から5.7%にほぼ半減、電気代も8.5%から7.6%に縮んだ。
総務省は「物価は緩やかに上昇している」と分析。SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「想定より弱含んでおり9月の上昇幅は0.9%程度にとどまる」と予想した。
先行指標となる9月の東京都区部の消費者物価指数(中旬速報値、生鮮食品を除く)は前年同月比2.6%上昇と17カ月連続のプラスだが、上昇幅は7、8月の2.7%から縮小した。
民間企業で働く会社員やパート従業員が2013年の1年間に受け取った給与の平均は、前年比5万6000円増の413万6000円で、3年ぶりに上昇に転じたことが26日、国税庁の実態統計調査で分かった。
平均給与はピークだった1997年の467万円に比べ約53万円少ないが、有識者からは安倍政権の経済政策「アベノミクス」による景気の回復基調が反映されたとの見方が出ている。
一方で、正規雇用者の平均給与は前年比1.2%増の473万円だったのに対し、非正規雇用者は0.1%減の168万円で、開きは前年より5万円拡大。非正規雇用者は数が増えた一方、1人当たりの労働時間や時間当たりの労働単価に大きな変化がなく、給与の上昇につながらなかったことが背景にあるとみられる。
1年を通じて勤務した給与所得者の総数は前年比2.0%増の4645万人、うち女性は同3.4%増の1891万9000人で、いずれも過去最多となった。所得税を納めた人は83.9%(前年比0.3ポイント減)となる3897万人だった。
給与総額は3.4%増の192兆1498億円。給与所得者が源泉徴収で納めた所得税額は、前年より9930億円(13.6%)増えて8兆2907億円だった。国税庁は、13年分から(1)復興特別所得税が始まった(2)収入1500万円超の給与所得控除額が245万円の定額に抑えられた-ことなどを税額増加の要因とみている。
給与の増減を業種別にみると、「不動産業、物品賃貸業」が8.7%増で上昇率最大、「農林水産・鉱業」が3.2%減で最も下落率が大きかった。
≪強まる「悪いインフレ」の懸念≫
8月の全国消費者物価指数は、緩やかな物価上昇が続いていることを示したが、日銀が理想とする「需要の強さが物価を引き上げる」(ディマンド・プル)形の物価上昇の姿は見えてこない。むしろ、最近の円安進行を受け、「コスト増が物価を引き上げる」(コスト・プッシュ)という「悪いインフレ」の懸念が強まっている。景気の好循環の維持に向け、物価上昇に見合った働き手の賃金上昇が一段と重みを増している。
8月の全国消費者物価指数で、天候要因で値動きする生鮮食品などの食料品や、国際市況などが影響するエネルギー価格を除いたベースでは、4月以降、2.3%程度の横ばいの動きが続く。消費税増税の影響を除けば、0.6%の上昇にとどまる。物価上昇の“地力”は「まだ力不足」(野村証券の水門善之エコノミスト)との評価もある。
もっとも、2%物価上昇率目標を掲げる日銀に円安の追い風が吹く。円安による輸入物価の上昇で、「年末以降、再び物価上昇率のプラス幅が拡大する」(明治安田生命保険の小玉祐一チーフエコノミスト)観測が強まってきた。
ただ、輸入コストの増加は、大企業に比べ経営体力が劣る中小企業を直撃する恐れがある。景気改善をともなわず、コスト増を主因する「悪いインフレ」では、企業はコスト増を価格転嫁しにくい。企業が従業員の賃金引き上げを後回しにし、働き手が財布のひもを絞れば、個人消費に冷や水を浴びせかねない。
政府と経済界、労働団体が29日に再開させる「政労使会議」では、賃上げもテーマになる見込み。地方経済を支える中小企業を意識し、政府が「ローカル・アベノミクス」を掲げる中、賃上げが中小企業に幅広く及ぶかどうかも、重要なポイントとなりそうだ。(塩原永久/SANKEI EXPRESS)