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【世界自転車レース紀行】(19)スペイン 荒々しい山を舞台に熱戦
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改修中のサンティアゴ・デ・コンポステーラのカテドラルの前で行われた最終表彰式。レース中に降った雨も上がり、華やかに開催された=2014年9月14日、スペイン・ガリシア州(田中苑子さん撮影) 自転車ロードレースには「グランツール」と呼ばれる3つの大会がある。5月の「ジロ・デ・イタリア」、7月の「ツール・ド・フランス」、そして8月下旬から9月に開催される「ブエルタ・ア・エスパーニャ」(スペイン)の3大レースだ。それぞれ開催期間は3週間、全21ステージとなっており、長い歴史とともに開催国が世界に誇る一大スポーツイベントだ。
シーズン最初の「ジロ・デ・イタリア」は、イタリアの美しい建造物の間を縫ったり、未舗装路の急坂をいくつも越えるなど派手な演出が多く、シーズン最初のグランツールはとにかくスペクタキュラーな印象だ。続いて開催される「ツール・ド・フランス」は、3つのグランツールの頂点に君臨する世界最大のレース。とにかく全てにおいてスケールが大きく、夏休みシーズンと重なって、世界中からたくさんのファンがフランスに足を運び、レース映像は全世界190カ国に配信される。
それらの熱気から比較すると、シーズン最後のグランツールとなる「ブエルタ・ア・エスパーニャ」は、いつもどこか静かな印象を受ける。9月はもう来季の準備が始まる時期で、連日ビッグネームたちの移籍話がメディアをにぎわせる。また直後に控える世界選手権の調整レースとして参加する選手が多く、さらにはスペインの不況もあいまって、数年前からツール・ド・フランスの主催者「アモリ・スポル・オルガニザシオン(ASO)」が大会運営に協力する形でなんとか存続できている。
しかし、今年は例年以上に盛り上がりを見せた。なぜなら、ツール・ド・フランスの優勝候補とされながらも、序盤に落車してリタイアしたアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)とクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)がそろってブエルタ・ア・エスパーニャに参戦。ツール・ド・フランスの雪辱を晴らすべく、スペインの荒々しい山を舞台に、今季最高といわれるハイレベルで、見るものを熱狂させる戦いを連日繰り広げたからだ。
≪「巡礼のよう」 ひたむきにゴール目指す≫
今年の「ブエルタ・ア・エスパーニャ」はスペインの南端、アンダルシア地方で40度を超える酷暑の中開幕した。レースが進むにつれて荒涼としたスペインの大地を北上し、最後はスペイン北西部のガリシア地方へ到着。キリスト教の三大聖地であるサンティアゴ・デ・コンポステーラで、最終ステージとなる個人タイムトライアルが開催された。
いつもはスペインの大都市でのゴールが多いが、今年は例外的にサンティアゴ・デ・コンポステーラでのフィナーレとなり、最終ステージを終えて、巡礼者たちが長い道のりを経て目指すカテドラル(聖堂)の前で最終表彰式が執り行われた。
世界遺産になっているサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路は、さまざまな経路があるが、スペイン国内だけで800キロ以上にも及ぶ。現在でも厳粛な信者をはじめ、世界中から多くの人が集まり、約1カ月半から2カ月かけてその巡礼路を歩いている。
今年のブエルタ・ア・エスパーニャの総走行距離は3239キロ。3週間にわたって開催されるグランツールは、ときとして旅にたとえられる。さまざまな天候下で、ひたむきにゴールをめざして走り続けることは、自分との戦いでもあり、そうした側面が巡礼と重なるのだ。
そして、今年の栄えある勝者は、ライバル、クリス・フルームとの山岳決戦を制し、2つのステージで優勝した母国スペインのヒーロー、アルベルト・コンタドールだった。ツール・ド・フランスでは落車により腓骨を骨折したが、驚異的な回復力でわずか1カ月半でレースに復帰し、不運の出来事からちょうど2カ月後、テーピングが残る脚で表彰台の頂点に立った。
グランツールは走り切ることだけでも名誉とされる過酷なものであり、けがからの復帰戦で勝つというのは、並大抵のことではない。戦いに敗れたフルームらライバル選手たちも、最後まで諦めずに果敢に挑んだ。彼らの戦いは、まさに“聖地”にふさわしい神聖さをもまとい、巡礼路を歩く人々も、足を止めて大きな声援を送っていた。(写真・文:フォトグラファー 田中苑子(そのこ)/SANKEI EXPRESS)