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【パリの中庭】美しさという存在感 丸若裕俊
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博古堂(はっこどう)が手がける新ライン“Hakko”のお椀=2014年9月24日、東京都港区(宮川浩和撮影) “鎌倉彫”をご存じだろうか?
その源流は仏具として生まれ、漆が渋みと深みのある独特の色合いを醸し出すこの伝統工芸品は、高校時代を鎌倉で過ごした私にとってなじみ深い存在であり、鎌倉散策を楽しんだことがある方なら一度は目にされたことがあるのではないだろうか。
今回ご紹介する博古堂(はっこどう)の品は、宋の時代の流れをひく歴史ある鎌倉彫イメージを残しつつ、心地よく現代へバージョンアップさせ、洗練された躍動感ある伝統の美しさを感じさせてくれる逸品である。
博古堂は、鎌倉の鶴岡八幡宮の鳥居の真横に品格ある店舗を構える。訪れる度、当代である後藤圭子氏はいつも笑顔と優しい語り口で迎え入れてくださるが、見せていただく品々からは、単に美しいという表現では収まらない、強い精神性が感じられる。仏師の技術を源流に持ちつつ長い年月をかけて磨き上げた技法の結実には、武士の精神が宿っているようだ。例えるならば“威風堂々”という言葉が適切であろう。
博古堂の逸品は、その手間暇を惜しまない制作姿勢による希少性と多くのファンの存在により、残念ながら国内においては鎌倉の店舗を含む限られた場所のみでの取り扱いとなっているが、熱心なファンの一人である私が是非にと頼み込み、私たちが店を構えるパリのNAKANIWAでも取り扱いをさせていただいている。パリの人々に新しい美しい体験を提供したいという考えから始めたNAKANIWAにとって、どうしても外せない存在だったのだ。
海外での漆器の販売は、湿度や生活スタイルの違いによる使用方法の違いまたは価格により難しいといわれているが、美的感度の高いパリの地でも、博古堂の逸品は既にファンを獲得し、定期的に購入されるお客さまがいらっしゃる。
ファンのお客さまの「吸い込まれるような存在感を手にしたい欲求に勝てなかった」という言葉が印象的で、美しい物の魅力が国境を越え、言語や知識を超えて伝わるのだと喜ばしい思いで聞いた。
驚くほどモダンなたたずまい、継承された技術と精神に、今という命を吹き込むことによって生み出される形。そこからは、伝統の持つ本質とその魅力を改めて知り得る。日本の清らかな精神性を彫りに込め、自然を凝縮した優しくも奥深い漆で包みこんだ博古堂の逸品の可能性に、更なる広がりを感じずにはいられない。(「丸若屋」代表 丸若裕俊(まるわか・ひろとし)/SANKEI EXPRESS)