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セウォル号「強硬遺族」が韓国社会に亀裂

 韓国の国会で9月30日、90余りの法案が一気に可決された。法案成立は5カ月ぶり。旅客船セウォル号沈没事故に関する特別法案をめぐり、遺族や野党の一部強硬意見に引きずられ、国会が空転していた。遺族団体幹部による暴行事件も伝えられ、韓国世論に、遺族に対する冷ややかな見方も広がった。発生から半年近くたった今、セウォル号事故は、韓国国民の間に深刻な亀裂を生んでいる。

 5カ月も国会が機能停止

 「セウォル号法交渉とは別に、法案を処理すべきだというのが多くの国民の希望だ。5カ月間、国会を封鎖し、他の91件の法案まで処理を妨げる大義名分はない」。韓国大手紙、東亜日報は9月26日の社説(電子版)でこう強調した。

 セウォル号法とは、事故の真相究明に向けた特別法案を指す。事故で犠牲となった高校生らの遺族団体が、特別法で「遺族が加わる調査委員会に捜査権と起訴権を与えるべきだ」と主張。民間人への捜査・起訴権付与は「司法の根幹を揺るがす」と応じない政府・与党に対し、遺族側はソウル中心部でハンガーストライキを行うなどして抗議を示し、遺族を支持する野党が法案審議を拒否してきた。

 与野党は結局、調査委に捜査権などは与えないものの、真相究明を指揮する特別検事の推薦者に遺族を加えるかは今後、議論し、10月末までに特別法案を処理することで合意し、国会空転がようやく解消された。この合意に対しても遺族団体は「遺族を排除するものだ」と強く反発している。

 「あの日の誓い」どこへ

 この遺族団体のかたくなな姿勢に対し、別の韓国紙、朝鮮日報の社説(電子版、10月1日)は、「沈没事故の影響に引きずられ、国全体が沈んだ雰囲気になるのは、もう終わりにしたいのが国民の思いだ。遺族らは国民の思いにも配慮すべきではないか」と指摘した。

 遺族寄りの主張を続ける左派系新聞のハンギョレも10月1日の社説(電子版)で、「『セウォル号(事故)の前と後で変わらなければならない』としたあの日の誓いを再確認する必要がある。あのとき、セウォル号問題は、政府と反対派の争点でもなかった」と不毛な対立に対して反省を求めた。

 韓国紙によると、強硬姿勢を貫く高校生犠牲者の遺族団体と距離を置く遺族もいる。一般乗客の遺族らは与野党合意に理解を示し、合同焼香所から家族の遺影を別の場所に移した。街からセウォル号関連の横断幕を撤去するよう求めたり、事故現場近くの港でも行方不明者家族に立ち退きを求めたりする声が上がっているという。

 「ゆがんだ自画像」

 遺族に対する国民の目が厳しくなったきっかけは、9月中旬に起きた運転代行業者への暴行事件だ。遺族団体幹部らと野党議員が酒を飲み、呼んだ業者に暴言を吐き、暴行したとされる。団体幹部らは「俺たちが誰か知っているのか」と言い放ったと伝えられる。

 韓国紙は一部遺族が振りかざす「特権意識」を問題視し、朝鮮日報の社説(9月19日)は、「暴力を振るう遺族代表の姿は、韓国社会が情に流され、間違った対応を取ってきたかを示す、この国のゆがんだ自画像だ」とまで断じた。

 問題は、遺族だけにとどまらない。ハンストをする遺族のそばで、「暴食」して挑発するグループも現れた。タレントの一人が「断食を続けて死ね」と口にしたとの話題も広まった。

 中央日報(電子版、9月30日)は社説で、セウォル号事故後、「政界や政府も社会の弊害を清算しようと叫び、人々はより安全な国にと希望を抱いた。だが、違う状況へと韓国社会が変わった」と嘆き、こう警告する。

 「韓国社会の分裂は、来るところまで来た。今の分裂は、韓国の総体的な水準を端的に見せている」(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS

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