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愛しのラテンアメリカ(19)パタゴニア 広大な自然 身近に感じる生活

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愛しのラテンアメリカ(19)パタゴニア 広大な自然 身近に感じる生活

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雲がさまざまな表情を見せる=2013年4月5日、アルゼンチン・サンタ・クルス州エル・カラファテ(緑川真実さん撮影)  1年半に及ぶ旅行で、今でもまぶたに焼き付いている光景がある。漠然とした大地がどこまでも続く、パタゴニア地方の風景だ。

 パタゴニアはチリとアルゼンチン南部の総称で、南緯がほぼ40度以南のエリアを指す。両国の境界線にアンデス山脈が走り、西側のチリは強い偏西風が山脈にぶつかるため比較的雨が多く、東側のアルゼンチンは乾燥していて、表情豊かなパタゴニアの自然が迎えてくれる。

 面積は日本の国土の約3倍ある。鳥の鳴き声も聞こえない、世界の最果てのような乾いた大地をひたすら走る。「この先に街なんてあるはずがない、人が住んでいるはずもない」と信じたくなるほど何もないが、何百キロ先には、街があり、人々が穏やかに生活を営んでいる。街と大自然の風景が繰り返し現れ、どんどん南下していく。

 私はアルゼンチン側に長く滞在した。一年を通して涼しく、空気が澄み、乾燥しているため、寒さも都会の寒さとは全く違う。透き通った、すがすがしい冷気は心地がよい。ふと見える、まるで生きているような雲の動きにあっけにとられ、草むらでつながれた馬と目が合い、犬同士が無邪気に追いかけっこをしているような、のんびりとした時間が流れる。広大な自然を身近に感じる生活は、本当に居心地が良かった。

 ≪限りなく透明に近い真っ青な輝き≫

 パタゴニア地方で世界的に有名な観光地の一つが、ロス・グラシアレス国立公園のペリト・モレノ氷河。全長約35キロ、先端部の幅は約5キロ、高さは約60メートルの巨大な氷河だ。限りなく透明に近い真っ青な輝きを放つ氷の「大地」が、目に飛び込んでくる。

 氷河ツアーの拠点は、エル・カラファテというアルゼンチン南部に位置する人口2万人未満の静かな街だ。唯一、人でにぎわうメーンストリートには、旅行代理店やレストラン、土産物屋などが点々と建つ。この街から約80キロ離れた場所にペリト・モレノ氷河がある。

 ツアー最大のポイントは、氷河トレッキングだ。展望台から眺めていた氷河の上をアイゼンを装着し、歩く。一歩一歩踏みしめながら、ガイドの後をついていく。周辺は一面氷で、進んでいるのか、スタート地点からどのくらい離れたのか見当もつかない。時々空いている穴の中には水が溜まっていて、きれいに光が乱反射している。背後からは「ガラガラ、バリバリ」という、氷河が崩壊する音が時折聞こえてきて、五感で大自然を満喫できる、とても貴重な体験だった。最後はガイドがコップに注いだウイスキーに砕いた氷を入れ、全員で乾杯をした。

 パタゴニアにはペリト・モレノ氷河があるロス・グラシアレス国立公園以外にも約30の国立公園が存在し、雄大な自然の宝庫となっている。日本からは数回飛行機を乗り継いで到着する、まさに「地球の反対側」だが、パタゴニアならではの景色は長旅を我慢しても見る価値が十分あると思う。(写真・文:フリーカメラマン 緑川真実(まなみ)/SANKEI EXPRESS

 ■みどりかわ・まなみ 1979年、東京都生まれ。フリーカメラマン。高校時代南米ボリビアに留学、ギリシャ国立アテネ大学マスメディア学部卒業。2004年のアテネ夏季五輪では共同通信社アテネ支局に勤務。07年、産経新聞社写真報道局入社。12年に退社後、1年半かけて世界ほぼ一周の旅。その様子を産経フォト(ヤーサスブログ)とFBページ「MANAMI NO PHOTO」でも発信中。好きな写真集は写真家、細江英公氏の鎌鼬(かまいたち)。

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