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愛しのラテンアメリカ(18)アルゼンチン 油断は禁物 上品そうな紳士も…
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治安はあまりよくないが、アルゼンチン人はいたって陽気で、ラテン気質のヨーロッパ人といった印象。気取らず気さくなので、話しかけやすかった=2013年4月19日、アルゼンチン・首都ブエノスアイレス(緑川真実さん撮影) 先住民の国ボリビアからアルゼンチンに入る。街並みは整然とし、すれ違う人々はみな白人で、国境を越えるとまったくの“異国”があった。「南米は広い」とつくづく感じる。
たとえば長距離バスひとつとっても、国民性の違いは歴然としている。ホラーやアクションなど、極端な趣味の映画ばかり流れていたボリビアと比べ、アルゼンチンでは社会派映画が断然多くなった。もちろん、映画のチョイスにわざわざ口を挟む乗客もいない。おいしい食事もついてくる。下世話な話だが、車内のトイレに便座とトイレットペーパーも設置され、きちんと水も流れた。バス移動が快適になったのはいうまでもない。
一気に先進国に来た気分だが、気になっていたことが一つあった。それが首都ブエノスアイレスの「治安」。事前情報だと、すりなどは日常茶飯事だという。リマで出会ったブラジル人カップルは、ブエノスアイレスの高級日本料理店で食事中、椅子にかけていたバッグを、スーツを着た一見上品そうな、老年の白人男性に盗まれたと話していた。
≪のどかな公園 自転車の少年は強盗だった≫
実際に行ってみると現実は噂以上で、特に日本人をターゲットに「ケチャップ強盗」という犯罪が横行していた。
有名な手口なのでご存じの方は多いと思うが、ケチャップに見える液体を旅行者のリュックに気づかれないようかけ「なにかついてますよ」と一人の人が声をかける。まわりの人も「ホントだ」と寄ってくる。「ちょっとそのリュック貸して、きれいにするから」と預けたら最後。奪われるというもの。主流だったケチャップから、今は強烈に臭い鳥の糞(ふん)のような液体に進化し、盗難の被害を逃れても、ツンとしたきつい臭いが残る。日本人旅行者の友人は2日連続で遭遇し、洗っても臭いが落ちないため、服もリュックも捨てざるを得なかったという。
「チョコレートついてますよ」は他の知り合いが遭遇したが、甘い香りの方がまだましだ。グループで行動する犯人らは、本当に親切そうな年配者から子連れの母親まで幅広く、なかなか外見から判断がつきにくいため厄介な犯罪だ。
未遂に終わったが、私は少年の強盗に遭った。昼間、広くて人気もある公園のベンチに座っていたら、自転車に乗った少年が目の前に停車し、「携帯出せ」と脅してきた。周りに人も多く、銃も持っておらず、小柄な少年だったので「ノー」と断り歩き出すと、彼は追いかけてこなかったが、白昼堂々の大胆な行動に驚いた。
外出時は24時間いつでも、どこでも油断できない。それは現地の人々も同様で、ブエノスアイレス出身の友人の母親は、出かけるときはいつも旅行者のように、貴重品をマネーベルトに入れていた。「バッグに入れてたらすぐに盗まれるからね」と、60歳を過ぎて痩せた彼女がシャツを上げ、出てきた細いおなかに巻かれた白い貴重品ベルトを見たとき、日本の治安の良さに改めて感謝した。(写真・文:フリーカメラマン 緑川真実(まなみ)/SANKEI EXPRESS)