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国際
手工芸品ビジネスで未来開く アジア女性社会起業家セミナー
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タイ、ベトナム、ミャンマーの女性起業家3人が9月14日に来日した。7月にタイで開催された「アジア女性社会起業家セミナー」についての東京報告会に参加することが目的。3人とも、手工芸品ビジネスを通じて社会的課題を解決しようという社会起業家だ。
ベトナムのファム・チ・ガンさん(37)は、障害がある子供たちのアート作品を生活雑貨に加工し販売する「トヘ・ジョイント・ストック・カンパニー」を経営する。ベトナムでは、とりわけ農村地域の貧困層の障害がある子供たちに物質的・精神的な支援が届きにくいという現状がある。広告代理店を経営していたガンさんは「障害のある子供たちに、遊ぶことを通じて精神的な豊かさと創造力を育む場所を作りたい」と考え、アート教室を始めた。子供たちの作品を生活雑貨に加工して販売し、その利益をアート教室の運営に還元する仕組みだ。
東京報告会で、実際に商品を手に取った参加者からは、「カラフルで魅力的、購買意欲がかき立てられる」「ブランディングを工夫すれば今の3倍の値段で売れる」「とにかく、かわいい!!!」といった声が聞かれ、好評だった。ガンさんは、「日本のマーケットについてさらに勉強して、自分たちの商品の向上につなげたい。そして障害のある子供たちの未来の可能性を広げていきたい」と話した。
タイから参加したのは、農村部の女性職人とともに織物を製作・販売する「フォークチャーム・クラフト」のパサウィー・タパサナンさん(29)。男女の雇用機会が均等な都市部とは違い、農村では女性が経済的に自立するのは難しいという。タパサナンさんは、そんな農村の女性職人と共同で、綿花の栽培から伝統のオーガニック織物の製作、販売までを行い、農村の伝統を守ると同時に、女性の所得向上に取り組んでいる。報告会前日に、都内の小物・生活雑貨を販売するデパートやショップを見学したタパサナンさんは「日本人の消費者は、手工芸品や職人に高い敬意を持っていることに感銘を受けた。タイの手工芸品を私自身が牽引(けんいん)していきたい」と意気込みを語った。
「アジア女性社会起業家セミナー」は、メコン地域(カンボジア、タイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス)の女性社会起業家の経験共有とネットワーク構築を狙いとして開催された。
メコン地域で活動する女性社会起業家ら約40人がバンコクに集結し、3日間にわたり現状や課題を議論し、各自が培ってきたノウハウを共有。最終日には、地域初となる「アジア女性社会起業家ネットワーク」の発足が宣言された。
セミナーをきっかけにコラボレーション事業を始めることになった一人に、ミャンマーから来日したチチ・ネインさん(40)がいる。ミャンマーでは、伝統手工芸技術の衰退が課題となっている。ネインさんが代表を務める「クラフト・ミャンマー」は、地方の金細工職人や木工細工職人が装飾を施したUSBメモリーを販売しており、主にミャンマーの企業がギフト用などとして発注している。ネインさんは、「私たちの活動を通してミャンマーの伝統手工芸技術の継承と、ミャンマー人としてのアイデンティティー確立に貢献したい」と意欲的だ。
セミナーで知り合ったミャンマーの女性起業家から依頼を受け、彼女が農村部で作っている手染めのスカーフのギフトボックスを「クラフト・ミャンマー」で伝統技術を用いて製作することになったのだ。「セミナーで、同じ目的意識を持つ社会起業家と巡り合えたことが、とても大きな財産」と、ネインさん。
アジアでは、ビジネスの手法を用いて、社会的課題の解決に取り組む女性起業家が増えている。そんな女性たちが、セミナーで出会い、新しい可能性が生まれた。(日本財団 ソーシャルイノベーション本部 田中麻里/SANKEI EXPRESS)