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【タイガ-生命の森へ-】紅葉の村 自然の恵みを拾いに

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【タイガ-生命の森へ-】紅葉の村 自然の恵みを拾いに

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タイガで集めたチョウセンゴヨウの実を担ぐスラーバ=2014年10月5日、ロシア・クラスヌィ・ヤール村(伊藤健次さん撮影)  9月末から10月初旬にかけて、ウスリータイガを訪ねてきた。いつの間にかもう10度目の旅だ。

 相変わらずハバロフスクからタイガの入り口にあるクラスヌィ・ヤール村までの約300キロが鬼門だった。

 村に住むワシリーに迎えの車を頼んでいたが、当日の朝になってキャンセル。何とかハバロフスクに住む息子に舗装道路の終点まで送ってもらい、そこから先の“超悪路”は村から迎えにきたワシリーにバトンタッチして走破した。

 消防隊員と車の販売を掛け持つ息子は新しい乗用車。父は古いが頼りになる大型の四駆車。それが何だか街と村の生活の違いを反映しているようだった。300キロという距離自体は北海道で暮らす僕の感覚からすると、決して遠いものではない。だが、森に囲まれた村と街との暮らしの違いは大きい。その差はいったい何だろう。旅のあちこちでそんな思いが頭をよぎる。北海道では札幌への一極集中が進み、地方は人口流出が続いている。タイガの暮らしはこれからどんな風に変わっていくのだろうか。

 ヤール村は紅葉の真っ盛りだった。夜、屋外のトイレに向かうと、あきれるほど星だらけの空に、フクロウの声が染み渡るように響いた。霜が真っ白におりた秋晴れの日、村人と一緒にチョウセンゴヨウの実を拾いに出かけた。

 ≪8年ぶりの再会 たくましく成長≫

 ホームステイ先のアンナと歩いてビキン川の船着き場へ向かう。手には松ぼっくりを入れる大袋のほか、鍋とお茶セット、蒸しパンなどピクニック気分である。老若男女12人が2艇に分かれて船出した。犬も一緒ののどかな風景だ。

 村の下流へ向かうのは久しぶりだった。猟師と一緒だと時間をかけて狩小屋のある上流へ行くことが多いが、村から近い下流にもいい森がある。やがて倒木がからむ難所が現れたが、まだ10代後半の若者が竿(さお)や船外機をうまく操り切り抜けた。

 「今年のチョウセンゴヨウの実の買い取り価格は1キロ20ルーブル(日本円で約60円)。まあまあね」とアンナはいう。この実は殻を割って食べると甘みがあっておいしい。ビキン川流域はチョウセンゴヨウの大木に恵まれているので、いわば村の特産品。家族総出の秋の仕事だ。

 40分ほどで岸に上がり、それぞれシナーと呼ばれる木製の背負子(しょいこ)を背に出発する。このところ病気がちで久しぶりにタイガに入るアンナはうれしそうだ。集合場所に昼食を置いてからまさに蜘蛛(くも)の子を散らすように森へ入っていった。

 ホーイ。ホーイ。やがてあちこちから掛け声が響いてきた。夢中になると迷子になるから、お互いの居場所を確認しつつ実を集めるのだ。松の実拾いはできるだけ近くでいい場所を見つけられるかが鍵だ。川から離れるほど、集めた実を舟まで運ぶのに苦労する。だが近場から拾われていくので、どうしてもだんだん森の奥や山の斜面に入ることになり、拾えば拾うほど帰りは重労働になる。松ぼっくりを大きなナイロン袋に詰め込むと約25キロ。青年はこれを2つ…つまり50キロを背負子にくくり付ける。仲間に手を借りなければ立てない重さだ。若い頃からこんな仕事をこなしていれば、自然と足腰は鍛えられるだろう。

 子供たちのグループについていくと、ひときわ人懐こいウォーバという少年がいた。見覚えがあると思ったら、8年前の最初の旅でアンナの家に遊びに来た時、写真に撮っていた子だった。ただいま14歳。僕に「袋をもってついてきて」とちゃっかり言って急斜面をするする登っては、抱えきれないほどの松の実を袋に押し込んでいく。それにしても皆よく働く。子供や年配のおばあさんは重荷は背負えなくても実は拾える。青年はそうして集まった重い袋を担ぎ、汗をかきつつ何度も斜面を往復している。ついてきた犬さえ、いつの間にかアナグマを捕っていて笑ってしまった。

 僕も1袋担いで長い丸木橋を何とか渡り、集合場所へ着いた。そこへ体格のいい青年が2袋担いで足早に戻ってきた。彼もよく見れば最初の旅で出会っていた子ではないか。村の砂利道で釣竿をかつぐ姿にひかれシャッターを押した覚えがある。スラーバ20歳。あまりに大きくなって気づかなかった。やんちゃな眼差(まざ)しはそのままだ。まだかわいかった子供が、8年の間に、よく働き体力でもかなわない青年に変身していた。(写真・文:写真家 伊藤健次/SANKEI EXPRESS

 ■いとう・けんじ 写真家。1968年生まれ。北海道在住。北の自然と土地の記憶をテーマに撮影を続ける。著書に「山わたる風」(柏艪舎)など。「アルペンガイド(1)北海道の山 大雪山・十勝連峰」(山と渓谷社)が好評発売中。

 ■ビキン川のタイガ ロシア沿海地方に広がる自然度の高い森。広葉樹と針葉樹がバランスよく混ざっており、絶滅に瀕したアムールトラをはじめ、多様な種類の野生動物が生息している。

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