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比台風1年 犠牲7400人に鎮魂の祈り 進まぬ復興 NGO撤収恐れる市民

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比台風1年 犠牲7400人に鎮魂の祈り 進まぬ復興 NGO撤収恐れる市民

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タクロバンの沿岸部では、打ち上げられた大型船が撤去されないまま放置され、周囲にはがれきで建てられた小屋が並んでいる=2014年11月7日、フィリピン・レイテ島(吉村英輝)  フィリピンで死者・行方不明者計約7400人の甚大な被害を出した台風30号の上陸から1年を迎えた8日、被害が集中した中部レイテ島の最大都市タクロバンなど各地で犠牲者を追悼する行事が行われた。台風が横断した中部では、今も約2万人が避難生活を強いられており、復興の遅れが目立つ。

 レイテ湾に面したタクロバンでは、高さ約6メートルにも達した高潮で被害が拡大した。被災地支援に当たった団体のメンバーや地元住民ら数千人が8日早朝、避難所となった海辺の体育館近くから市役所までの約3キロを歩き、1年前の惨事に思いをはせた。

 郊外の集団墓地には、白い木で作られた無数の十字架が並ぶ。墓の前でしゃがみ込み、長時間祈っていたのはケイシャ・ミンダザさん(14)。高潮で流された他の家庭の子供を救おうとし、溺れて亡くなった父イスマエルさん(49)に「天から見守っていてほしい」と呼びかけたという。

 タクロバンでは現在でも、約300世帯がテント暮らしを余儀なくされている。海辺のテントで、ジェーン・ラバナンさん(16)は「1年たってもまだ安心できる生活には戻れていない。世界の皆さんも、わたしたちのことを忘れないでほしい」と、継続した支援を訴えた。

 ロムアルデス市長は集団墓地での慰霊式で、国際社会の支援について「どんな言葉を使っても感謝しきれない」と強い謝意を表明。8日午後の記者会見では「被災者が必要としている住宅供給などに注力する」と、復興の加速を約束した。(共同/SANKEI EXPRESS

 ≪進まぬ復興 NGO撤収恐れる市民 比台風1年≫

 タクロバンの中心部では、大半の店舗が営業を再開し、にぎわいを取り戻している。だが、町外れや郊外の被災地では倒壊家屋が放置され、支援も十分に届いていない。本格復興への展望が見えない被災者たちの不安は募る。

 沿岸部に戻る漁師

 高潮で壊滅した海岸線から約10キロの高台に作られた仮設住宅では、530世帯の約2300人が、日本などの支援で建てられたプレハブ家屋に暮らす。年末にはさらに山側へ約15キロ入った復興住宅へ移住する予定だが、122世帯分しか間に合わず、くじ引きとなった。市の担当者は「外れた人が仮設にとどまれるよう地権者と交渉中」という。

 当選したメイレネさん(29)は、仮設住宅で生まれた赤ん坊を含む4人の母親だが、浮かない顔だ。自転車で海に通う漁師の夫の苦労は増え、長男(10)の通学バス代を払うあてはない。復興住宅は2年目から家賃がかかり、毎月50キロの配給米も止まりそうだ。

 こうした事情から、仮設住宅から漁村に舞い戻り、高潮対策で居住禁止になった水際に廃材で小屋を建てて暮らす家族が多い。その一人の女性(64)は「8人家族に仮設は狭すぎる。台風は怖いが、今の方が漁には便利だ」と話す。

 フィリピン政府によると、台風で家屋約49万戸が全壊し、被害総額は約900億ペソ(約2300億円)に上った。アキノ大統領は10月末、被災地の包括的な復興計画を承認した。約1700億ペソの予算で20万戸の復興住宅建設を予定するが、着工したのはまだ約2000戸だ。

 政治対立で支援届かず

 ある市民は「政治対立が復興を阻害している」と指摘する。タクロバンの市長の伯母は、長期独裁政権を維持したマルコス元大統領の妻で現在は下院議員のイメルダ夫人。アキノ現大統領の父親はマルコス氏の政敵で1983年に暗殺されたベニグノ・アキノ氏だ。8日の合同慰霊祭にはアキノ大統領ら政府幹部は出席せず、イメルダ氏が参列し、反目を浮き彫りにした。

 行政を尻目に、被災者を迅速に支援してきたのが外国からの非政府組織(NGO)だ。タクロバン市役所前の正面広場は8日、各NGOが実績を紹介するテントで埋まり、スタッフが記念撮影に興じていた。

 タクロバンには来年1月、ローマ法王フランシスコが慰問に訪れるが、その後は大きな行事の予定はない。

 「被災者が一番心配しているのは、NGOがいなくなってしまうことだ」

 地元のロウェル記者は、NGOの関心がいずれ、世界が注目する次なる被災地に向かい、復興が停滞する事態を懸念している。(タクロバン 吉村英輝/SANKEI EXPRESS

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