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ネットから離れたのに 恐るべし麻雀…! 乾ルカ
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秋の終わりの豊平川とその河川敷。手前の街灯が邪魔…=2014年10月19日、北海道札幌市(乾ルカさん撮影)
小学生のころ、長期休みに毎年足を運んだ母方の祖母の家には、麻雀セットがありました。たった一度ですが、祖母と叔父叔母、私より2歳年上の従兄の4人で卓を囲んでいるところも、後ろから眺めたことがあります。知識がまったくなかったので、あがった従兄が「リーチツモタンヤオドラ2」などと言うさまは、わけのわからない呪文を唱えるようにも聞こえたものでした。
私が実際に麻雀を覚えたのは、それからもっと後、短大生のときです。ファミコンの麻雀ソフトをプレーしながら、父にアドバイスをもらうという形でルールを覚え、やがてソフトとは打てるようになりました。
以後、ゲームの麻雀は私の趣味の一つとなり、今はネット上の麻雀ゲーム(対人ではありません)を楽しんでいます。
ですが、ちょっと困ったことにもなっています。仕事中も気分転換と称し、半荘(ハンチャン)だけとやり始めたら最後、結構止まらなくなってしまうのです。
まさしく時間泥棒。
というわけで先日、ネットにつながる環境が悪い…いや、悪いのは意志薄弱の私なのですが、とにかくネットゲームから離れようと、少しの間家を出て、良心的価格設定、言い換えれば安いビジネスホテルに滞在しました。とはいえそこはビジネスホテル。ネットにつなごうと思えば余裕でつながるので、パソコン自体を持たず、ポメラ1台で勝負に出ました。
滞在前半は、だいたい私の思惑通りに事が運びました。やはり麻雀ゲームから離れるのが最善の策だったと、ちょこまかと古いポメラのキーをたたきながら思ったものです。
ですが、落とし穴は意外なところに待ち受けていました。
ホテル滞在3日目の朝、着替えが尽きたので、ホテル内のコインランドリーで洗濯をしました。他に誰もいなかったので空きを待つこともなく、これは幸先がいいと洗濯物を洗剤とともにぶち込み、完了まで37分かかるという表示を確かめてから、ふと横を見ました。
そこには「お洗濯が終わるまで、これを読んで待っていてね」と言わんばかりの、漫画本がそこそこ並んだ小さな本棚がありました。
その中に見つけてしまったのです。『アカギ』(福本伸行著、竹書房刊)を…。
『アカギ』は麻雀漫画。一度読みたいと思っていながら、読んだことはありませんでした。37分の時間があった私は、これも一期一会の縁、読みなさいという天のお告げと解釈し、手に取って壁際の椅子に座りました。
そのあとは、書くまでもないのですが、37分で止めることなどできず、乾燥機利用の30分も『アカギ』を読みふけり、それも終わってしまったあとは、本棚の『ホテル外に持ち出さないでください』との注意書きを「ホテル内ならいいのだ」と解釈して、棚にあった未読の全巻を部屋に持ち込みました。
だって、問答無用で面白いのです。途中で止めたら続きが気になって逆に仕事がはかどらないと自分自身に言い訳し、あとは一気読みでした。
『アカギ』の魅力はいろいろありますが、やはり一番は主人公、赤木しげる(13~19歳)の頭抜けたかっこよさにつきるでしょう。「倍プッシュだ…!」とどんどんレートをつり上げ、ほとんど生きるか死ぬかレベルの勝負に身を投じるアカギ。天才の彼は死をまったく恐れません。けれどもいつでも勝ちに行く。純粋にギャンブルに対して真摯(しんし)なのです。それから相手の手を読み、次にどう来るか予測し、一つ牌を捨てるごとにターゲットの思考を操り、術中にはめる見事さ。読者をうならせる手でアカギがあがってから、彼の策略が周りの人間の視点、対戦相手の気づき等でひもとかれるので、ちょっとしたミステリーのようでもあります。また対戦中の読み合いやかけひき、心の揺らぎは、アカギ以外丁寧に描かれるので(アカギは逆に描かれないことによって、さらにミステリアスな魅力を増します)、ゲームでしか麻雀が打てない私でも、心理戦を追う醍醐味があります。
もちろん、実践的に役立つ情報もあります。最初のほうで捨て牌を3種に分けて考えるというロジックは、目からうろこでした。そこを読んだだけで、なんだか強くなったような気がしたものです。
ともあれ私はその日、朝から午後2時くらいまで、『アカギ』を読む以外なにもしませんでした。そしてすぐに頭から再読。恐るべし『アカギ』、恐るべし麻雀…! 圧倒的吸引力…! さらにその後知った真実…『アカギ』はまだ連載中…! しかもそもそも『天 天和(テンホウ)通りの快男児』のスピンオフ作品…もう引き返せない…!
家に帰ってすぐしたことは?
洗濯とネット麻雀です。
やっぱりアカギのようには打てませんでした。当たり前ですが。
「ゲームで麻雀を覚えた人は、おおむねわがままな打ち方をする」と聞いたことがあります。振り込んでもなにを失うわけでもないから、リーチがかかった場面でも危険牌を安易に捨ててしまう、自分のあがり優先で安手でもおりない、ということらしいです。
自分を顧みて、なるほどなあと思います。とりあえずいつか天和あがってみたいです。(作家 乾ルカ/SANKEI EXPRESS)
「アカギ」(福本伸行著/竹書房、既刊1~28巻各596円)