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本能に生きる主人公がうらやましい 映画「紙の月」 宮沢りえさんインタビュー
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「私の暗記力がすごい?_窮地に追い込まれたら誰だってセリフの暗記などできますよ」と語る、女優の宮沢りえさん=2014年11月6日、東京都港区(鴨川一也撮影) 7年ぶりの主演映画「紙の月」(吉田大八監督)で宮沢りえ(41)が演じたのは、長らく共働きで子供を持たない「DINKS(ディンクス)」の生活を謳歌(おうか)してきたきまじめな女性銀行員の梨花。思いがけず自分よりはるかに年下の大学生と恋に落ちるや、その遊ぶ金欲しさから、次々と顧客の預金に手を付けては帳簿類の偽造を繰り返し…。
「梨花は平凡な生活を送ってきた女性だし、主婦の仕事もきちんとこなしていました。私の場合、そのどちらにも当てはまらない人生だったので、梨花の役作りではかなりの想像力を必要としたんですよ」。宮沢にとって、梨花は等身大の自分とはあまりにもかけ離れた役どころではあったが、本作に出演したことで、人間に与えられた自由とは何か-を真剣に考えるまたとない契機ともなったそうだ。
本作は、直木賞作家、角田(かくた)光代(47)の同名のベストセラーを、「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督(51)が映画化。先の東京国際映画祭では、観客賞のほか、宮沢に主演女優賞をもたらしたのは記憶に新しい。
バブル崩壊直後の1994年、銀行の契約社員として外回りの仕事を精力的にこなしていた梨花は、そのきめ細やかな仕事ぶりで上司たちの信頼も厚かった。ところが夫といえば、自分の出世と上司のご機嫌ばかりに気をもむ仕事人間。心の中では妻の仕事を小ばかにしていた節もあり、梨花は夫との関係にむなしさを感じていた。そんなある日、顧客の孫で大学生の光太(池松壮亮(そうすけ))と出会う。
宮沢は普段の自分とはまるで違うタイプの役どころほど、緻密(ちみつ)かつ立体的に構築してやろうとファイトがわいてくるらしい。「『役者にできない役はない』が私のモットーです」。宮沢は演者としての心構えを力強く語った。撮影現場では役者が言いにくいせりふを別の言い方に換えてもらう場面を目にしてきたが、宮沢は苦々しく思っているという。
「そういうことを頼むのは好きではありません。言えないものを言えるように努力するのが役者です。演出家の指示に対し、私は『できません』とは言わないし、『言えないせりふなどない』とも思っています」。昨年、病に倒れ、舞台を降板した天海祐希(47)の代役を、わずか2日間のけいこで完璧に務めあげた宮沢の発言だけに説得力がある。
梨花の役づくりでは、角田の原作をベースに表情やしぐさといったディテールを詰めていき、徹底的にリアリティーを追求した。何もかもあらゆる束縛から解き放たれて自由になりたいと梨花が強い衝動に駆られてしまうのは、実は人間の本能ではないのか-宮沢の考えだ。人間の本能を今にも火口から噴き出さんとするマグマに例え、梨花は理性、常識、倫理という実にもろい鍋蓋で栓をしていたにすぎないというのだ。「学生も、社会人も、みんながみんな、穏やかな日常生活を捨て去って、とても本能で生きる道を選べるものではないでしょう。でも、私はある意味、梨花をうらやましく思います。彼女はいろんなものを捨てる勇気を持っていたからこそ、自由を手に入れました」。梨花が金にだらしない光太に心を奪われてしまったのも、自由のなせる業と言いたげだ。「もし誰かに恋してしまったとき、『なぜその人を好きになったのか』と具体的に言葉でその理由を挙げることは難しいじゃないですか」
お金とはメリハリをつけた付き合い方をしてきたつもりだ。「例えば、旅行したいときとか、自宅に友達を呼んでご飯に招待したいとき…。そういうことにはお金を惜しみたくないので、結構、自由にお金を使う方です。私は行きたいところには行くし、みんなとご飯を食べたいときには大盤振る舞いだってします。人間が豊かになる活力となるならば、出し惜しみはしません」。お金に自分の生活が支配されてしまうのは、宮沢のもっとも嫌うところだという。
東京国際映画祭で主演女優賞を手にしたことで、改めて映画女優としての責任を痛切に感じた。「20年後、30年後も世の中に残り、鑑賞されるのが映画であり、そこが最大の魅力でもある。そういう意味で演者たちはものすごく緊張感を強いられますよね。映画が皆さんに愛され、後世まで生き続けることができれば、再び大きなスクリーンで放映されることもあるでしょう。いいものを作れば残り、そうでなければ消えていく。映画の世界はとても怖いものですね」。
本作では吉田監督が粘り強く、細かな表情をとらえる演出を徹底したことで、宮沢自身も思い描いていなかった表情を引き出すことができた。これから出会うであろう監督の要求に応えられるよう、演技の引き出しをどんどん充実させていかなければならない。宮沢は決意を新たにした。11月15日、全国公開。(文:高橋天地(たかくに)/鴨川一也/SANKEI EXPRESS)