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「標的」は正恩氏 募る危機感 国連人権侵害決議に猛反発
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朝鮮人民軍第572部隊と630部隊の合同軍事訓練で号令する金正恩第1書記(中央)。朝鮮中央通信が2014年11月23日に配信した。北朝鮮は、タブーである金第1書記個人の責任追及に道を開く国連決議に猛反発した=北朝鮮・首都平壌市(朝鮮中央通信提供・ロイター) 北朝鮮の国防委員会は23日、国連総会第3委員会での、日本人拉致を含む北朝鮮の人権侵害についての非難決議採択(18日)に反発し「未曽有の超強硬対応戦に突入する」との声明を発表、対象国として米韓と共に日本を名指しし「決して逃れることができない」と警告した。朝鮮中央通信が伝えた。国防委はトップが金正恩(キム・ジョンウン)第1書記(31)。北朝鮮は採択後、政府機関などの名義で繰り返し決議を非難してきたが、今回の声明は、決議への反発としては最も強いレベルといえる。決議は金第1書記の責任追及に道を開く内容になっており、強い反発の背景には「体制の根幹が狙われた」との危機感がある。
声明は非難の矛先として決議を主導した日本と欧州連合(EU)を前面に据えず、背後にいるとの認識を示した米国のオバマ政権に「ひざまずいての正式な謝罪を求める」と主張するなど米国との対決姿勢を強調。その後に日本と、決議の共同提案国となった韓国を列挙して非難した。
日本については、北朝鮮が進めている拉致被害者らの再調査への影響には言及しない一方、「今のような状態が続けば『近くて遠い国』程度ではなく、われわれの目の前から永遠になくなる存在だ」と威嚇。さらに「聖戦が始まれば日本も丸ごと焦土化され、水葬されなければならない」などと訴えた。
採択された国連決議は「国家の最高レベル」による人権侵害への政策的関与に言及し、安全保障理事会に対し国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)への付託を検討するよう促す厳しい内容になっている。ICCは人道に対する罪、大量虐殺、戦争犯罪に関わった個人を裁く常設の国際刑事法廷で、国連安保理からの付託を受けると、ICC検察官は捜査を実施して証拠に基づいて起訴でき、加盟国では身柄を拘束される可能性もある。
北朝鮮は金第1書記ら建国以来の歴代トップを「最高尊厳」と呼び、「朝鮮人民が生命以上に重んじる」(北朝鮮メディア)存在であり、国民は幼少時から政治教育などを通じて忠誠心を培われる。ICCへの付託については安保理に委ねられるが、北朝鮮にとって金第1書記の責任が国際社会で論じられること自体、あってはならない禁忌だ。トップ弾劾の可能性に触れた決議は、北朝鮮にとって最大のタブーに踏み込んだといえる。
北朝鮮当局者は10月、北朝鮮の人権問題担当のマルズキ・ダルスマン国連特別報告者(69)と会い、決議案からICCに言及した部分などを削除すれば、人権状況の調査のためダルスマン氏の訪朝を受け入れるとの意向を示した。だがダルスマン氏に修正権限はなく、北朝鮮は一方的に期限を設けて対応を求めたが、決議を主導した日本とEUは取り合わなかった。18日の決議案採決に先立ち、北朝鮮高官は、決議に賛同する国は「あらゆる結果に責任を負わなければならない」と警告したが、決議は賛成多数で採択され、外交的「条件闘争」に北朝鮮は敗北した。
今後、北朝鮮は最後の切り札の「核実験」をちらつかせて打開策をさぐると見られるが、軍事挑発は、安保理で拒否権を持ち、北朝鮮が緊密化を図る友好国ロシアとの関係に水を差すことになる。日本の拉致被害者らの再調査について、結果通告の先延ばしを図る可能性もあり、再び北の「瀬戸際外交」から目を離せない状況だ。(SANKEI EXPRESS)