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【だから人間は滅びない-天童荒太、つなげる現場へ-】(9-1) 自分たちで身を守る土台作り
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2014年1月に行われた訓練ではDIGと呼ばれる参加型災害図上訓練が取り入れられた(島晃さん撮影、提供写真) ≪大規模災害訓練主導するNPO法人≫
作家・天童荒太(てんどう・あらた)さん(54)が、社会を支える現場を訪ねる不定期連載「だから人間は滅びない」。東日本大震災の被災地で子供たちの教育に携わる2人の若者との対話から始まったこの旅も、今回で最終回となる。
震災から3年8カ月。今年8月に発生した広島土砂災害など、日本は多くの災害に直面し続けている。最終回では、全国的にも珍しい民間主導型の大規模災害訓練など、災害に備えるつながりづくりを行っている「すぎとSOHOクラブ」(埼玉県杉戸町)と「NPO埼玉ネット」(さいたま市北区)の2つのNPO法人を訪ねた。
「ヘリコプターで上空から確認したところ、海岸に津波が押し寄せている」「液状化が発生して一般車両の通行ができない」-。緊迫感のある報告が飛び交う。これは、今年1月、杉戸町で開催された「協働型災害訓練」の様子だ。杉戸町、福島県富岡町、川内村の自治体や消防に加え、市民救助隊、医療機関、炊き出し支援部隊、さらには全日本救助犬団体協議会や自家用航空機を活用して災害支援にあたる団体まで、さまざまな活動を行う150団体から、のべ約350人が参加した。民間主導型で、これだけの団体が参加して行われる訓練は、全国的にもまれだ。
《首都圏直下型地震が発生。杉戸町では自治体内の要救助者を救助するとともに、後方支援自治体として首都圏からの避難者を受け入れる。そのとき、行政からの要請をもとに、民間団体は何ができるのか》-。これが訓練での想定だ。自家用ヘリで上空から情報収集にあたったり、救助犬を派遣したり。それぞれの団体が、それぞれの役割を確認しあった。
訓練を発案したのは、「すぎと~」と「埼玉~」。訓練の統括責任者で、2つの団体でそれぞれ副理事長と事務局長をつとめる豊島亮介さん(39)は、民間主導の訓練の意義をこう語る。
「災害発生時の支援には、自助、共助、公助の3種類がある。そのうち7割を占めると言われているのが自助です。震災時にも公の支援が期待できない状況が発生していた。いかに自分たちで自分たちの身を守れるか。そのための土台作りです」
なぜ、杉戸町という埼玉県の小さな町で、これだけの大規模訓練が実現できたのか。震災時に生まれた「つながり」がその源流にある。
≪埼玉と福島の絆 強くなって未来へ≫
「仲間、助けにいかなきゃいけないべ」
震災発生直後、「すぎと~」の小川清一理事長(70)は、1000食分の食料を持って、杉戸町の友好姉妹都市である富岡町民が避難する川内町へと駆けつけ、炊き出しを行った。
その後、避難区域が拡大し、川内村も全村避難へ。小川さんが食料とともに杉戸町長の手紙を持って行ったことがきっかけで、杉戸町と周辺の幸手市、宮代町で、富岡町、川内村の約200人の避難を受け入れることが決まった。
一方、「埼玉~」は、「市民キャビネット災害支援部会」として、被災地支援に向かったさまざまなNPOのとりまとめや後方支援をしながら、自らも物資や食料の移送を行っていた。「知り合いの知り合いだったりいろんな所からSOSが届いていた」と「埼玉~」の松尾道夫代表理事(67)は振り返る。
その後、2つの団体は共同で復興支援を開始。食料や物資などの初期の直接支援だけでなく、首都圏に避難している人たちのコミュニティーづくりや、帰村宣言をした川内村で復興祭を開くなど、長期的な交流・支援を続けてきた。
そんなとき、国土交通省が全国から「広域的地域間共助」事業を募集していることを知る。
「広域的地域間共助」とは、離れた地域同士が普段から交流をすることで、災害発生時に互いに助け合えることを目的にした事業のことだ。
「自分たちは実際に避難をし、受け入れるという立場を経験してきている。ただつながるだけではなく、より実効的なものにできないか。そんな思いから、訓練の企画が持ち上がった」(豊島さん)。事業に選定され、2団体と2町1村で協議会を設立。震災後の支援体制などを精査し、その成果として訓練を開催した。
訓練では、インシデント・コマンド・システム(現場指揮システム、ICS)を取り入れた。災害時の指揮系統や管理手法をスムーズにするための世界共通のシステムだが、日本ではまだ普及していない。「災害時は情報の混乱が障害となる。実際の支援活動を通じて、迅速かつ正確に対応できるシステムづくりが不可欠だと感じました」(豊島さん)。
国交省の事業は終了したが、訓練は手弁当で来年も行う予定だ。
「せっかくできたつながり。これだけで終わらせるのはもったいない」と豊島さん。震災で生まれた「つながり」は、新しく、そして強いものとなって未来へとつながっていく。(取材・構成:塩塚夢/撮影:フォトグラファー 島晃/SANKEI EXPRESS)