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【だから人間は滅びない-天童荒太、つなげる現場へ-】(7-7) 対談を終えて 天童荒太

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【だから人間は滅びない-天童荒太、つなげる現場へ-】(7-7) 対談を終えて 天童荒太

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植え終わったゴーヤの苗にじょうろで水をやる天童荒太(てんどう・あらた)さん。大きくなあれ!=長野県松本市(緑川真実さん撮影)  ≪四賀クラインガルテン いいとこ取りでいい 未来の扉開く「往還型」≫

 実際に四賀クラインガルテンを訪れて、まず初めに実感したのは自然のすばらしさでした。澄んだ空気だったり、風景の広がりだったり。そういったものは、想像だけでは分かりません。外に出て、足を運ぶことの重要性を再認識させられます。

 「豊かさ」という言葉についても考えさせられました。ガルテナー(利用者)と村民たちの暮らしは、よく言われる「貧しいけれど自然があれば幸せ」ということではなくて、食べ物も空気もおいしく、様々な知恵や知識をもつ村民やガルテナー同士の交流も濃密で、すごく文化的。本質的な意味で豊かだと感じました。

 真の豊かさとは…

 今回の取材を通じて思ったことは、やっぱり「人」。まず、クラインガルテンを生み出した中島さんですが、2つの逆転がその原動力となっている。

 最初は、自然豊かな信州から離れて高度成長期の東京に滞在されて、自然から隔離されたその生活が、ある種の貧しさだと気づかれた。相対的にふるさとのすばらしさを発見し、そのよさを都会の人にも味わわせてあげたいと思ったことが起点になっている。

 次は、イタリアを訪れ、貧民窟だと思っていた小さな集落が、実は本当の意味での豊かさを持つクラインガルテンだったと気づいたこと。この2つの逆転が、彼を駆り立てるモチベーションとなってきた。改めて、人間の内面の大事さを思わされました。やはり、人間ありきなのだと。

 その後、壁にぶつかったときに助けてくれたのも人間です。ヒントをくれた官僚だったり、さまざまな思惑があれど、結果的に予算を通してくれた議会だったり。誰一人欠けても、今のクラインガルテンはなかったでしょう。

 都市と農村共存

 一方、ガルテナーの岡崎さんは、ご自身がおっしゃったように、人生の快感の音域を広げる生き方をされていらっしゃる。ガルテナーたちは、農作業を通じて自分たちがさらに成長すること、学ぶことに喜びを覚えている。不便すら「知らないともったいない」とおっしゃる姿に、クラインガルテンは〈辛抱と寛容〉が自然と身につく場所なのだと感じました。辛抱はつらいことだという思い込みがあるけれど、実は長期の利益を得るためのステップなのだと思います。真の豊かさへ向かうステップなのだから、本来少しもつらくないはずなのです。彼らは、そういったことに気づいている。

 週末だけ農業、というスタイルはいいとこ取りのように思えるけれど、それで都市と農村が共存できるのであれば、いいじゃないか、と思うのです。その中で〈辛抱と寛容〉が身につくのであれば、堂々といいとこ取りをしてしまえばいい。

 私たちは大量生産品や、利益率の高い贅沢(ぜいたく)品ばかりがメディアにさらされる広告社会の中で目隠しをされています。地道で利益率の低いものは私たちの目に触れることは少ない。それは誤った洗脳です。こういった施設が増え、自然と触れ合う新たな暮しの経験値を上げていく中で、本当の豊かさに気づく人が増えていくのではないでしょうか。

 国をも変える

 「人」の次は、「自然」。自然が天然ガスや石油に負けないぐらいの資源だということを、改めてとらえ直すことができました。農業をできる土地は、本来未来を形作るエネルギーのはずなのに、私たちはそれにあまりにも無頓着になりすぎてきた。

 金井(保志)さんがおっしゃっていた害獣の問題も、その一つです。四賀という小さな地域を見にきたのだけれど、そこから日本全体の課題が見えてきた。小さな土地に立ち、土に触れることで、世界規模で生じている問題まで見えてくる。害獣が増えたのは、温暖化のほか、資源活用の偏りや人口流失などで、自然の秩序が乱れてしまったから。各国共通の経済構造の問題点があらわれているのです。

 もはや古くなったと言える価値観に立った都市集中のシステムが、今の人口減少の背景の一つになっていると思います。今の都会では、子供を育てられるかな、と不安になってしまうのは仕方のない話です。そういった人たちが自然を経験することで、目の前にあるのに未知だった世界の豊かさに気づくことがあるのではないでしょうか。

 そのために、「滞在型」を少し変えて、「往還型」という言葉を提案したい。行って戻ることができるって、すごく自由。自由を担保することで、足止めしている人たちを解き放つことができるのではないでしょうか。行きつ戻りつが、都市と農村が持つ行き詰まりを展開させてくれる。

 自然というものは、閉ざされたものではなく、都市にむかっても広がりを持つことをクラインガルテンが証明してくれました。気軽に行き来できるようになれば、農村の人口ももっと増えるでしょう。そうなれば、保育所やクリニックもできたりと、子供を育てやすい環境にもなる。この国のあり方を変える有力なきっかけになるのではと思います。

 「田舎で農業」というのはノスタルジーとともに語られがちだけれど、実は未来への扉なのではないでしょうか。(作家 天童荒太(てんどう・あらた) 談/撮影:フォトグラファー 緑川真実(まなみ)/SANKEI EXPRESS

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