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【だから人間は滅びない-天童荒太、つなげる現場へ-】(7-3) 村長 クビ寸前!? 辛抱と寛容 自然な形で身につく

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【だから人間は滅びない-天童荒太、つなげる現場へ-】(7-3) 村長 クビ寸前!? 辛抱と寛容 自然な形で身につく

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埼玉県川越市在住のフリーライター、岡崎英生さん愛用の農機具。しっかり使い込まれている=2014年、長野県松本市・四賀クラインガルテン(緑川真実さん撮影)  ≪農水省「畑に滞在施設、とんでもない」/議会「なぜ、村の税金を都会の人に」/住民「どうせ失敗する」≫

 中島学さん(以下中島) 予算の前にハードルがあった。当時は農地法がかっちりしてましたから、畑に滞在施設を建てるなんてとんでもなかった。農水省に相談に行くわけですが、最初は門前払い。けれど、人の命をはぐくみ幸せを与えるという大命題に農地法が立ちはだかるなんておかしいということで、5、6回通いました。あるとき、向こうが「僕も実は前からクラインガルテン勉強しているんです。いい計画ですよね」と言い出した。じゃあ、農地法をどうするか。「農作業をするには農機具を置いたり休息する場所がいる。疲れて一杯やったらそのまま寝ちゃった、というのはどうですか。滞在施設ではなく、あくまで休息場所です」「そうそう、それで行こう!」って(笑)。

 その次は予算です。幸い、行政的に県と行き来がありまして、当時の知事が応援すると言ってくれた。50%の補助は出せるけど、残り半分どうするか。四賀村(しがむら)、財政力弱いですから。すると、四賀村(しがむら)は過疎の指定町村になっているから、過疎債が使えるよと。元金と利子は交付税で措置できる。村の負担はわずかになりました。

 それで、予算書を作って議会に出しました。大問題です。当然ですよね。村民の税金と交付金を使って、なんで都会の人を幸せにしなければいけないのか。東京でうめき苦しんでいようが、関係ない。誰が都会から高い電車賃使って、貴重な休みにわざわざ四賀まで来て草むしりをしたがるのか、って。実際にミュンヘンに議会のみなさんを視察に連れて行ったけれど、「ここは市街地から自転車で15分くらいだからやっていけるけれど、四賀ではムリだ」。

 でも、半年ぐらいたって、突然予算が通った。おかしいな、と思ってある人に聞いたら、「中島さんのクビを取るためだよ」だって。あの調子だと何やるかわかんないから、中島を村長から降ろそうと。クラインガルテンをやらせれば、どうせ失敗するだろうから、クビを取れると。こういう図式が成り立っていた。そうして事業が始まったわけなのですが、たまたま小学館の「サライ」という雑誌に小さな紹介記事が載ったんです。それがきっかけで、工事中からどんどん人が来た。村民の大部分が失敗するだろうと思っていたら、見事に当たってしまったわけです。

 天童荒太さん(以下天童) 周りがそんなに反対する中、どうして中島さんは自信を持てたんですか。

 中島 ドイツのガルテナーと話すと、みんな幸せでしょうがないって言うんですよ。幸せは万国共通だから、日本でも当たるに違いないと。単純な動機ですよね。

 不燃ゴミは持ち帰り

 天童 そうして、実際にクラインガルテンが誕生した。独自のルールがありますね。

 中島 まずは、大命題である環境保全。そのために水と土を汚さない有機無農薬をお願いしています。ゴミも、生ゴミは各自の庭で堆肥にしてもらって、肥料にならないプラスティックなどの不燃ゴミは、出発地の自治体に持って帰ってもらう。ここでは一切回収しない。不便だとは思いますが、「不燃ゴミの始末って手のかかるものだなあ」と思ってもらえれば、そこでまた環境学習になるでしょう。初めて来た方にはある意味厳しいですが、ガルテナーのみなさんは意識が高い方が多いので、受け入れてもらってる。

 それから、お仕着せかもしれませんが、「田舎の親戚制度」。当初、村民たちの反対も大きかったものですから、これはガルテナーと仲良くなってもらねばならんと。

 つかず離れずではあるけれど、濃厚な絆を作ってもらう。お祭りがあるからおいで、とか。逆に、ガルテナーの地元を訪れたときに夕食をご馳走してもらったり。すばらしい人間関係。さまざまな語らいができる。

 ガルテナーから教えてもらうことも多いですね。例えば、水。ガルテナーが20リットルのポリ缶に5本も6本もここの水をつめて持って帰る。地元の人間からすれば、「水なんて東京でもどこでも一緒だろう」と思うのですが、「ここの水じゃなきゃダメなんだ」と。これは発見でしたね。ここにずっと暮らしているだけでは気がつかなかった。(構成:塩塚夢/撮影:緑川真実(まなみ)/SANKEI EXPRESS

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