天童荒太さん(以下天童) 2005年に四賀村(しがむら)が松本市と合併し、村長の座を退かれた。振り返ってクラインガルテンについて、やり残したことはありますか。
中島学さん(以下中島) そうですね…。実は、私はこの村全体をクラインガルテンにしたかったんです。実績はすでに充分あるわけですから、予算的な心配もない。
でも、平成の大合併で松本市と合併した。日本全体が人口が減っていくなかで、国としても地方自治体をなるべく合併させて、交付税を切り詰めたい。そうしないと、未来の社会保障や医療保険制度が立ち行かなくなる。そのための合併は避けて通れない。私はそれには大賛成です。だから松本市との合併にも同意したわけですから。
四賀村の理念とかは全て合併協定書に書き込んでおきました。しかし、いざ実権が移ってしまうと、やはり「あんな面倒くさいことはやめておこう」となる。各地域の特徴はこうだから、こう発展させて…というふうにはなりにくい。合併した地域を金太郎飴のように均一にしなければならない。その方が「平等に扱っていますよ」と言えるわけですから。ですので、今はすでにある緑ケ丘と坊主山の両エリアを大切にしていこうと。
天童 なるほど。中島さんは講演などで各地に呼ばれていますよね。なぜ、中島さんが必要とされているのか。そこにはこの国が抱えている限界が関係しているのではないか。
中島 先日も鳥取県のある自治体に講演に行きました。そこは、過疎で集落が消滅しようとしている。でも、実際行くといいところなんですよ。大きな川が流れていて。
天童 過疎の問題を好転させるための一案としてクラインガルテンが注目されている。
中島 そうですね。大自然という財産があるので、過疎を食い止めることができるのでは、と。それだけでなく、都会に住んでいる人に幸せを提供することもできる。私自身は、過疎対策のためにクラインガルテンを始めたわけではありませんでしたが。
天童 しかし、結果として最先端となった。自然が石油に匹敵する資源なのだと見直す声が上がり始めているということですね。
中島 資源はそこにあるわけですから。それを活用するかしないかだけです。
天童 お話しをうかがっていって、「教育」も柱となるキーワードなのかな、と。
中島 まさにそうです。緑ケ丘では、薪ストーブを導入しています。森に入って、この木とこの木を間伐してください、とガルテナーにお願いする。ノコギリ使って木を切って、乾かして、薪にする。子供や孫もそれを手伝う。山林を外から眺めるのではなくて、実際に入っていって健康な森を作るためにどこを間伐すればいいのかを身をもって知る。汗を流して作った薪がエネルギーになる。汗が燃料になるんだ、と学習する。
天童 そこには、時間と試行錯誤を受け入れる〈辛抱と寛容〉がありますね。どちらも世界から今失われつつありますが。森とか、農業というのは、それを自然な形で教えてくれる。
中島 すごい言葉ですね。まさにそう。
天童 願いは、町の暮らしのすぐ近くにこういう施設があることですね。それこそ、自転車で15分で行けるような。
中島 もっと増えればいいと思っています。日本は地価が高いから、首都圏をにらんだ場合なかなか難しいことですが。
有機無農薬で
天童 ここに来る人は、有機無農薬にも引かれているのではと感じます。今は、グローバル化の中でどんどん遺伝子組み換え作物が台頭していますが、その対極にある。
中島 それはとても差し迫った問題です。少しクラインガルテンから話がそれますが、今私は養鶏の仕事をしています。エサに遺伝子組み換えの穀物を使うことに、すごく抵抗しているんです。遺伝子組み換え作物を直接人間が食べる場合には表示義務がありますが、家畜飼料にはない。枯れ葉剤を大量に使って育てていますから、遺伝子組み換え作物には有害物質が分解されずに蓄積されている。それを、家畜を通して口に入れることになってしまう。
天童 クラインガルテンのような場所をどれだけ死守できるか。それが、子供や孫を守ることにつながっていくのかもしれません。こういった活動が、地道に広がっていくことでグローバル化に勝ちうる。地道なことを、人はどれだけ辛抱して続けていけるかですね。
中島 絶望してはいけないな、と思うのが、クラインガルテンが今全国に約5300区画あるということ。私たちが始めたときはゼロでしたから。それだけ、意識が高まっている。やり続けなければいけないな、と思いますね。
天童 ところで、中島さんは非常に広い視野をお持ちですが、幼い頃から?
中島 私は戦争経験者でして…。生まれが次男坊なものですから、独立独歩するために軍隊に入った。そこでいろんなものを見ましたね。終戦は長崎県の特攻戦隊で迎えました。原爆投下から4日後の長崎市内にも捜索のため入りましたね。相当被曝したと思います。あれを見ていますから私は絶対に戦争はいけないと思っている。
私がいつも会う人ごとに問いかけているのは、「あなたは今幸せですか」ということ。一度しかない人生。みんなが幸せになるべきだと信じています。(構成:塩塚夢/撮影:フォトグラファー 緑川真実(まなみ)/SANKEI EXPRESS)
■てんどう・あらた 1960年、愛媛県生まれ。86年『白の家族』で第13回野性時代新人文学賞受賞、93年『孤独の歌声』が第6回日本推理サスペンス大賞優秀作となる。96年『家族狩り』で第9回山本周五郎賞受賞、2000年『永遠の仔』で第53回日本推理作家協会賞(長編部門)受賞、09年『悼む人』で第140回直木賞、愛媛県文化・スポーツ賞、13年『歓喜の仔』で第67回毎日出版文化賞受賞。連続ドラマ『家族狩り』が7月4日~TBS系列で放送開始予定。