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北極圏 スバルバル諸島(下) ソ連の廃虚「ピラミーデン」観光

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北極圏 スバルバル諸島(下) ソ連の廃虚「ピラミーデン」観光

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ノルウェーの北極に浮かぶスバルバル諸島の氷河を見ながらロシアの廃虚となった旧ソ連の炭鉱「ピラミ-デン」に向かった。お昼はなんと、氷河を砕いたウィスキーのオンザロックに、クジラのバーベキューだった=2014年10月16日、ノルウェー(内藤泰朗撮影)  「旧ソ連が誇った炭鉱ピラミーデン(ピラミッドの意)へようこそ!」

 北欧ノルウェー・スバルバル諸島の「ゴーストタウン」として知られるピラミーデンの港に上陸すると、「ドブリョンカ」と呼ばれるヒツジの毛皮コートと帽子をかぶり、猟銃を肩にかけた笑顔の若い男がなまりのある英語で、こう声をかけてきた。旧ソ連崩壊後、閉山され廃虚と化したピラミーデンに住む数少ないロシア人ガイド、サーシャさんだ。

 銃はシロクマと遭遇したときに身を守るため、ガイドは法律で所持を義務づけられている。だが、絶滅が危惧されているため、襲われたとき以外は射殺してはいけないという。

 1週間ほど前の深夜、シロクマが「ホテル」と呼ばれている宿泊施設にドアを破って侵入、1階のバーを荒らしてナッツとビールをたらふく飲んで出ていったという。全部で十数人のロシア人住人たちは就寝中で、危害は及ばなかった。

 「ここでは人よりクマの数の方が多いので、バラバラに行動しないでください」。サーシャさんは笑顔で、こう警告した。

 シロクマには遭遇しなかったが、ホッキョクギツネやトナカイはすぐ近くまでやってきた。氷河から崩れ落ちた氷塊が浮かぶ海には、クジラやゾウアザラシも生息する。野生動物と観光客たちが街の主人だった。

 ≪共産主義の理想郷 いまや携帯も通じない≫

 炭鉱ピラミーデンまでは、スバルバル諸島の中心街、ロングイヤービエンから船で北に4時間余り。4階建ての立派なアパートがいくつも立ち並んでいるのに誰も住んでいない。携帯電話も通じない。そこは文明から隔絶された世界だった。

 緊急時には、無線で助けを呼ぶ。ガイドのサーシャさんも、歯が痛くなり、一度だけ救助を求め、ヘリコプターで街の病院に搬送されたという。

 だが、「昔なら、すべてここで治療できたのですよ」。旧ソ連時代、街には、当時、最先端の医療施設に加え、保育園や体育館、コンサートホール、24時間食事ができる大型レストランのほか、牛や鶏を飼う家畜舎までつくられた。極北の地で、新鮮な牛乳や卵を食べることができたそうだ。

 スバルバル諸島最大のスピッツベルゲン島で1910年にスウェーデンが開発した炭鉱は27年に旧ソ連に売却された。第二次大戦後、旧ソ連当局は「共産主義の成果」を世界にアピールするため、炭鉱の街を「北極の理想郷」につくり変えた。「理想郷」には、高給を約束された炭鉱労働者のほか、医者や看護婦、保母さんまで送り込まれ、東西冷戦のピーク時には最大で1000人以上が暮らしていたという。

 だが、その炭鉱は、石炭が予想より早く枯渇。経済的に立ちゆかなくなり、旧ソ連崩壊後の98年、閉山。労働者たちは全員引き揚げ、廃虚となった。野生動物がわがもの顔で闊歩(かっぽ)する無人の街は、人間の愚かさの象徴のようにもみえた。

 炭鉱を所有するロシアの鉱山会社は観光客の受け入れを決めて、2007年からは新たに発電機を設置し、一部の建物をリフォーム。廃虚を北極観光の目玉にしようと動いている。前出のシロクマが訪問した「ホテル」も内部は、ロシア風の装飾が施されていた。

 スバルバル諸島のイエンツ・サーテル副知事は「ロングイヤービエンでも、ここ数日、シロクマがうろついて危険な状況にある。観光客が増えるのは喜ばしい。だが、環境とのバランスをとるのがますます難しくなっている」と語った。(内藤泰朗、写真も/SANKEI EXPRESS

 【ガイド】

 スバルバル諸島には、ノルウェーのオスロなどから直行便が飛ぶ。空港があるロングイヤービエンには、五つ星のホテルのほか、フルコースの北極料理を楽しめる高級レストランもあり、高速の無線インターネットも完備されている。廃虚の炭鉱「ピラミーデン」行きの船は冬季は休業。来年春からの運航再開となる。一日中、闇に包まれる冬季は、オーロラ観光が中心になるという。詳しくは、svalbardで検索。

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