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寒さで褐色脂肪のFGF21を活性化 大和田潔

 今回は、寒さの中で運動する意義を少し専門的にお話ししようと思います。人には体温を保つために、衣服や暖房器具を整える「行動性体温調節」と、体に備わった働きを駆使する「自律性体温調節」があることを前回お伝えいたしました。「ブルブルするぐらい寒かった」というフレーズがよく使われます。体温を作るために筋肉がブルブル震えるのも自律性体温調節の一つです。

 人間には、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞という2種類の脂肪細胞があります。脂肪細胞には、エネルギーが脂肪の形でコンパクトに貯蔵されています。褐色細胞には、脱共役(だつきょうやく)タンパク1(Uncoupling protein1:UCP1)が存在します。人体の中で、UCP1が存在するのは褐色脂肪細胞だけです。

 細胞の中には、ミトコンドリアというエネルギーを生み出す細胞内小器官という場所があります。ミトコンドリアにも、細胞核とは独立したDNAが存在しています。かつては違う生き物だった原始の生き物が、いつの間にか一緒に暮らすようになったのが私たちの細胞の祖先といわれています。

 脂肪細胞から放出された脂肪は、最終的に体の細胞のミトコンドリアで利用されます。ミトコンドリアは、細胞が利用できるエネルギー源を作り出します。これを共役反応と呼びます。褐色脂肪細胞のミトコンドリア内での反応は、イレギュラーな反応なため「脱共役反応」と呼ばれます。

 体内にわずかな量が存在する褐色脂肪細胞内のミトコンドリアは、白色脂肪細胞から届けられた脂肪を通常の経路を使わずに熱に変換し、寒さから身を守ってくれます。同時に褐色脂肪細胞からは、FGF21(Fibroblast growth factor 21:線維芽細胞増殖因子21)というホルモンが放出されます。FGF21は飢餓の時にも上昇し、寿命との関連も研究されています。

 筋肉を動かすと、「筋肉からの美しい伝令イリシン」(2013年9月23日付)で紹介したイリシンという脂肪燃焼ホルモンも放出されます。褐色脂肪細胞からのFGF21や筋肉からのイリシンを放出させる寒中の軽い運動は、合理的なダイエット方法です。寒空の下、元気に歩くことにしましょう。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS

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