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科学
気の持ちようの大切さ 「老いは気から」 大和田潔
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秋葉原駅クリニック院長、大和田潔さん。診療と執筆で多忙な毎日だが、ランニングと水泳を欠かさない。「体が軽くなれば動くのが楽しくなる。運動をすれば気持ちも前向きになる」=2014年9月2日(塩塚夢撮影)
年も暮れて年末になってきました。忘年会も多くなり、帰り際の電車の中のガラスに映る自分を見て、「あぁ、また年をとってしまったな…」と思ったり、いつの間にか増えた同僚の頭の白いものを見て、「自分だけじゃないんだ…」と感慨にふけったりしたことがあるかもしれません。
TED(Technology Entertainment Design:テド)という会議が米国で毎年開催されています。ウェブ上で無料公開され、NHKでも毎週放映されています。それぞれの分野で活躍する優秀なプレゼンターが、聴衆の琴線に触れる発表を行います。示されるスライドは概念をインスパイアする少数のものだけに絞られていて、見ている私たちはプレゼンターの話術に虜(とりこ)になっていきます。
このTEDの中でも、人の幸せを専門とする精神科医のダン・ギルバート博士(ハーバード大)の「未来の自分に対する心理」は大人気の回です。人間にとって時間という概念は非常に曖昧(あいまい)でとらえどころないものであるため、正確な予測を立てにくく、未来を見誤りやすいことを、わかりやすく説明してくれます。
大切なことは「人間が常に変化する存在であること」でした。人間の価値観や好みは生きている間、常に変化を続けるということは、目からうろこがおちる指摘でした。まさに「諸行無常」です。若い時も、年取っていっても人間の心は変化を続けているとのことです。
同じくハーバード大学のカラ・ファインバーグ博士は、自分を若いと思ったり、思わせたりする作業をすると、記憶力や体力が改善するという興味深い話題を提供しています。脳や体の老化は不可逆なようでありながら、実は精神の影響を受けており、自分を若いと思うと、体の能力が改善するというのです。
「病は気から」といいますが、「老いは気から」かもしれません。人間は、何歳になっても変化し続け、精神が身体能力を改善します。「あぁ、また年をとってしまったな」と思うか、「元気に来年も頑張ろう!」と自分に言い聞かせるか。それが分岐点です。年の瀬は、変化を楽しみながら上を向いて過ごしていくことにしましょう。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS)