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異国で学んだ若き才能の変容、開花 「17th DOMANI・明日展」
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紙川千亜妃「Gathering_for_the_admired_twin-guru」(2007年、2014年)など=2014年12月12日、東京都港区(原圭介撮影)
文化庁が将来性のある若手アーティストを海外派遣して支援する「芸術家在外研修」。その成果を発表する「17th DOMANI・明日展」が、国立新美術館(東京都港区)で開かれている。「緻密さが増した」(文化庁)のが今回の作家たちの特徴という。外国の異文化の中で、日本人として、どう自分の個性やアイデンティティ-を確立して発信していくのか。古くて新しい命題に、作家たちは取り組んでいる。
最初に目が止まったのは、キプロスに在住の紙川千亜妃さん(38)の作品「Gathering for the admired twin-guru」。不気味さとどこかユーモアの混じった表情の人物の鉛筆画が、立てられていたり、寝かされていたり。不思議な空間を生み出している。
わざわざ作品を立てているのは「平面で書いた面白さを失わないまま、“立体”で展示したいから」。裏側には違う人物を描く。それも、紙の形を最初に切って、その不定形に描くことで、「想像力が働いて、面白い絵が描ける」という。
研修先の大学院の先生のアドバイスで、装身具ジュエリーのデザインからドローイングに転向した。作品の中には、キプロスの宗教的な影響も見られる。
紙川さんは外国で創作活動をすることについて、「日本人のアイデンティティーをどう作品に出すか、ということは考える。分かりやすくて日本らしいものを簡単に求められることもあるが、自分のアイデンティティーとは違う。どう作品を通して自分を理解してもらえるか、いつも悩んでいる」と話した。
イギリスで学んだ岩崎貴宏さん(39)の「アウト・オブ・ディスオーダー(川崎シリーズ)」は、布や糸を使って、工業地帯のシンボルともいえる工場プラントの鉄骨や送電線、煙突、タンクなどを緻密に作り上げている。
「工場は、子供の頃は繁栄の象徴で、ぼくたちの生活を支えてくれていた。朽ちていくユートピアのようなものを作品に残したかった」。岩崎さんによれば、工場は海や川に排水を流すせいか、海や川に向かってデザインされている。川や海から見ると、お寺の伽藍配置に似た魅力があるという。
一方、参考作品の「リフレクション・モデル(極楽浄土)」は、金閣寺のような建物の模型2つを上下逆さに合わせた面対称の作品。「水面に反射する世界を表現したかった。いまではバーチャルな世界は珍しくないが、昔から、水に映った“あちら側”の世界をめで、来世でも『いいように生まれますように』という願いを込めた。それを作品で再現したかった」
文化庁以外の支援も利用して海外で4年間ぐらい学んでいる。海外でもっとも感じたことは「日本のように大量消費社会でない。逆に物がない分、想像力が爆発する」と、材料から手作りする、「創作の原点」に立ち返れるメリットを挙げた。
梶浦聖子さん(37)も、決して恵まれてはいない創作環境を、逆に愛する一人だ。「インドネシアの鋳造技術はずぼらなので、色合いが、かえって面白い」と、亜鉛などが混じり込んだ銅の作品が見せる表情に魅力を感じている。
行ったり来たりで、トータル9年間インドネシアで暮らした梶浦さん。木炭と扇風機だけで銅を溶かしているようなインドネシアの鋳造技術をみていると、古代の青銅器文化から連なるたくましい歴史を感じるという。
このほかにも、伝統的な磁器の技法を駆使して装飾的で繊細な作品を作り上げる青木克世さんや、板の上に色鉛筆で不思議な絵を描く古武家(こぶけ)賢太郎さん、銅版画をコラージュして夢のような世界を生み出す入江明日香さんら、全部で12人が才能あふれる作品を展示している。
今回のテーマは「造形の密度と純度」。展示している作品の大きな特徴としては「やはり、細かい手仕事をするのが日本人は得意のようで、その純度が高まっているように見える」(文化庁文化部芸術文化課の真住貴子・芸術文化調査官)という。
ただ、当然ながら、外国に行ってから日本伝統の技術を学ぶことはほとんどない。むしろ、海外で新たに身につけるのは「さまざまなアート関係者に出会って、自分の作品をプレゼンテーションする能力や、他人とのつながりを広げていくネットワーキング力が多い」(真住調査官)という。(原圭介/SANKEI EXPRESS)