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平和を思い、美しい「共鳴」作り上げた2人 テリー・ライリーと寒川裕人のコラボ「SUPER VISION」
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演奏するテリー・ライリー=2014年11月23日、東京都投稿区東雲のTolot_heuristic_SHINONOME(原圭介撮影)
現代音楽の巨匠、テリー・ライリー(79)と若手映像作家の寒川裕人(25)のコラボレーション「SUPER VISION」が、Tolot heuristic SHINONOME(東京都江東区東雲)で開かれた。ピアノ、シンセサイザーの旋律と大画面の映像が絡み合い、平和や自然への思いを強く抱かせる美しい世界を織り上げ、入場者を魅了した。
2人のコラボレーションが行われたのは11月22、23日。それぞれ400人を超える入場者が詰めかけた。
会場には正面に4枚、側面に8枚のスクリーン(最大縦4メートル、横8メートル)が設置され、入場者をすっぽり包み囲む。正面ステージにはピアノとシンセサイザーが置かれた。
11月23日第1部は「After the War」。ライリーは、祈りのような歌で始めた。歌詞の意味は分からないが、うなり声のような厳かな響きは、戦争で亡くなった人々への鎮魂歌にもお経にも聞こえてくる。
寒川氏の映像は戦争や紛争、軍事に関するものだ。空爆、ミサイル、負傷兵士、ヒトラーらが次々映し出される。
やがて、トランペットのような音が混じり、進軍ラッパのように、爆撃の音のように繰り返される。テンポは次第に速くなり、だれも止められずに世界が殺戮(さつりく)に狂奔する戦争の怖さ、愚かさが表現されているようだった。
第2部「from the future」は、静かな冬の風景から始まる。ライリーは、湖に張った氷のきしみを表現するように、ピアノの澄んだ音色を響かせる。映像は、美しい冬の自然や誰もいない建物を映したあと、南国の緑の風景や鉄格子のはまった建物に移り、最後に冬の海や山に戻っていく。
ライリーの音楽は、単純な音階の組み合わせだが、季節の空気感を捉え、透き通った水の冷たさやきらめき、田園を吹き抜ける風の心地よさまで伝えるように心にしみこんでくる。
寒川のプロジェクト「After the War」の映像は、2011年からWebを通じて協力者たちが集めてきた。1000件を超え、今も増え続けている。内戦やテロがいまだ続く国際情勢を見据えながら寒川は「プロジェクトを通し可視化することで伝え、戦争のない世界(After the War)につなげたい」と話す。
「from the future」の映像は、2011年の東日本大震災で被災した福島県と、カンボジアのプノンペンの風景だ。震災を知らないプノンペン在住の男性(当時28歳)に、福島の被災地の写真を撮りながら、感じたことを文章にしてもらった。それをもとに寒川が福島とプノンペンで映像を撮り、文章を映像に重ねている。寒川は「日本人は震災を過去からしか考えられないが、震災を知らない男性の文章は『未来からの言葉』に思えた」という。
男性の文章には、こんな記述がある。「私は、クメール・ルージュを実際には体験していません。しかし、その影響を受け、移住をしました。ここ(福島)にいると、それを強く思い出します。いつも家の祖母、叔父、叔母、兄、妹そして友人のことが恋しくなると泣いてしまいます。建物は長くそのままですが、人々はいない。ここで感じる物語は、私の人生に酷似しています」
男性は震災を、政治犯が処刑され、家族が引き裂かれて難民化した歴史上の悲劇クメール・ルージュにたとえた。映像には、その爪痕の風景も登場する。
寒川は少年時代からライリーのファン。ライリーと寒川の交流は、11年の東日本大震災後に、日本に向けてのメッセージを歌にしてYouTubeで公開していたライリーを見て、寒川が昨年末ごろメールを送ったことから始まった。「After the War」「from the future」のプロジェクトをすでに開始していた寒川は、自分の考えや集めた映像をライリーに送り、共演が実現した。
コラボを終えたライリーは「即興でその場の空気感を感じながら音楽を作ることができた。寒川の作品には僕にとって心地よいリズムがあった」と振り返った。ジャンルや世代を超えて“共鳴した”2人の創作活動は、これからも続くという。(原圭介/SANKEI EXPRESS)