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響き合う音と映像「大友良英 音楽と美術のあいだ」

 即興からポピュラーまで幅広い音楽に関わる大友良英が、音楽と美術両ジャンルの融合に挑んだ作品「音楽と美術のあいだ」が、NTTインターコミュニケーション・センター(東京都新宿区)で公開されている。8人の演奏者の即興演奏と不思議な映像が響き合い、自然や宇宙さえ感じさせる独特な空間を生み出している。音楽とは何か、美術とは何かを改めて考えさせる内容だ。

 展覧会は、2008年に山口県の山口情報芸術センターで展示された「quartets」と、階段にスピーカーを設置して大友のギター演奏を聞かせる「guitar solos 1」から構成されている。とくにquartetsは山口県での公開後、再公開を求める要望が出ていた。都内で公開するのは初めてとなる。

 quartetsでは、暗く広い部屋の中央にサイコロ状の白い箱が設置されている。その4つの側面には、演奏者のシルエットが映し出される。4つの側面に対面する部屋の壁面には、水面や水滴、地面、炭、油面などの映像が映し出されている。

 即興で演奏されている音は、ドラム、ギター、シンセサイザー、笙(しょう)、トランペット、女性の声など約10種類。調和して不思議な音楽を奏でているが、面白いのは、対面している壁の映像が、楽器の音に合わせて動く。例えばドラムが2度たたかれると、壁の水滴の映像が、それに合わせて2度震える。

 入場者は音の響きと、動く映像に包まれて、非日常的な空間に浸る。それが何か、知らない自然や宇宙の空間に漂っているような気分になる。

 さらに、演奏はコンピューターでシャッフルされて再び組み合わされ、エンドレスになるように仕立てられている。入場者それぞれは、入った日時で、別々の演奏を聴き、別々の映像をみるように工夫されているのだ。

 ジャンルを超えて

 古くから音楽と美術は、2つのジャンルに分かれ、マーケットも別々に発展してきた。かつて音楽では、鑑賞の対象は1回だけの生演奏だった。一方、美術では絵画や彫刻が繰り返し鑑賞の対象となってきた。しかし今、CDや写真(デジタル画像)の普及を挙げるまでもなく、音楽、美術ともに二次的な鑑賞が一般的になりつつある。

 1960年代、ディック・ヒギンズが音楽、美術、舞踊、映画などのジャンルの中間にある表現を「インターメディア」と呼んだ。例えば、音の可視化、光や色の可聴化…。大友のquartetsでは、そうした両ジャンルの融合を目指す試みがうかがえる。

 しかし、私たちの日常の感覚に立ち返れば、健常者であれば視覚の伴わない聴覚などないし、聴覚の伴わない視覚などないと言っていい。音楽と美術の融合は、むしろ私たちの生理に合った手法なのかもしれない。

 畠中実主任学芸員は、quartetsの鑑賞について、「十分な時間をかけて、じっくり味わってほしい。そうすれば、最初とは別な世界が見えてくるはず」と話している。(原圭介/SANKEI EXPRESS

 【ガイド】

 ■「大友良英 音楽と美術のあいだ」 2月22日まで、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC](東京都新宿区西新宿3の20の2 東京オペラシティタワー4階)。一般500円。月曜休館(月曜が祝日の場合は翌火曜)。保守点検2月8日。(フリーダイヤル)0120・144199。

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