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違った「時間」を感じてもらう 「大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレ」に初出品 大巻伸嗣
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「非日常的な空間で、もう一つの時間を感じてほしい」と話す現代美術作家の大巻伸嗣(しんじ)さん=2014年12月9日、東京都台東区の東京芸術大(寺河内美奈撮影)
今夏、新潟県で開かれる「大地の芸術祭・越後妻有(えちごつまり)アートトリエンナーレ」に初出品するアーティストの大巻伸嗣(しんじ)さん(43)=東京芸大准教授=に作品のテーマやねらいを聞いた。広い空き家を利用したインスタレーションを考えているという大巻さんは、「見る人の時間を奪いたい」と話す。ドキドキ、わくわくの作品に仕上がりそうだ。
いま、取り組んでいるのは、空き家の模型を見ながら構想を練る作業。十日町市内の空き家は2階建てで、床面積は200平方メートルを超える広さ。その中に、「もう一つの時間を感じてもらえる作品を創りたい」という。
過去に増築された空き家は、人が住まなくなってかなりの年数がたっているが、集会所としてはときどき使われてきたらしい。半分朽ちかけていて、今は「人工的なものと人工的でないもの(自然)の間にあるようなクレバス、空洞」。その中を「見る人(入場者)がどう歩いたらいいか」「ハッと気がつくと、1時間たっているような空間をどうやったら作れるか」を悩んでいる。
「古い家には、不在になりながらも、存在の記憶が残されている。それを呼び覚ますディテール(部分)が重要になってくる」とこだわる。記憶と物質は密接な関係があり、置き去りにされた道具や調度品、天井のしみなどが、生活の痕跡や時間の流れをとどめている。大巻さんはディテールから感じ取ったことを作品の中に盛り込んでいく。
十日町市の現場を訪れて感じたのは、雪の美しさと、雪の中で音の無くなる静かな世界。「そうした周囲の環境も巻き込んで、地域に根付いたアートをつくりたい」とイメージを膨らませる。ただ、一方では「地域のためにならず、地域をデザインしただけの作品ではいけない」と、あくまでも作品の魅力が失われないことにも心を砕く。
大巻さんがこれまで取り組んできた創作の柱の一つは、「(自分が)作り上げた“非日常的な空間”のなかで、いかに違った時間を(体で)感じてもらうか」ということで一貫している。
大巻さんが嫌いなものの一つは、スタンプラリー。決まった時間内に決まった場所を急いで巡るから。「追われるような時間で見ていても、何も見えてこない。もっと大きな、違う時間、自然や宇宙につながる時間のようなものを感じてほしい」
川崎市岡本太郎美術館で、今月12日まで開かれている「TARO賞の作家II」に展示されている「Liminal Air Space-Time」(2014年)は、大きな軽い布が、裏側から吹いてくる風で、膨らんだり、ゆっくり落下したり、さまざまな姿を見せる。
その風はコンピューター制御されているが、「いったんコンピューターが計算したプログラムを、壊すように作ってある。自然に近い形、動きを生み出すことで、ふわっと巻き込まれるような時間を感じてもらう」
2010年に「瀬戸内国際芸術祭」で香川県高松港に設置した作品「Liminal Air-core-」は、ゲートに色づけした一種のカラーチャートを前景に、多くの人々が写真を撮り続けることで、「長い時間で瀬戸内の環境の変化を記録し、認識していこうという」作品だ。これも加工した空間の中で時間を捉えていくのがテーマだ。
こうした創作の原点は、生い立ちと深く関係している。祖父が木箱作り、両親が洋服作りという家庭に生まれた。作業場や裁断場に余った板や生地があれば、それを使って何かを作った。カラフルにライティングされた商店街や商店の屋根の上が遊び場。服飾デザイナーや、服を買いにくる芸人たち、野球選手らが家を訪れ、さまざまな刺激を受けて、小学生のときにはすでに、アーティストになりたいと思っていたという。
現在は彫刻科で教鞭(きょうべん)をとる。すでに技術を教えるだけの美術教育の時代は終わっている。「いまの学生は、多くの情報があるので、何でも知り、何でもできてしまう。でも、自分が本当は何を求めているのか知らない」。だから学生に対しては「その子の持っている、本質的で最もいいところ、面白いところを、会話の中でさがしてあげる」と、“自分探し”を手助けする。
さらに、「5年先を見て、『これを自分なりに考えていくといい』とアドバイスしたり、その学生の壁になる(敵対する考えの)人、学生と同じ考えを持っている人を紹介する(教える)ようにしている」ともいう。
学生の指導でも大巻さんは、すぐに答えを求めず、大きな時間の流れを見つめることを忘れていない。(文:原圭介/撮影:寺河内美奈/SANKEI EXPRESS)
≪今夏、新潟県で≫
2000年から3年に1度開催され、今回で通算6回目。「人間は自然に内包される」をコンセプトに、この地域で人間が生き、生活するために親しみ、時には格闘してきた自然、それと関わるための美術(方法)を、作品を通して浮かび上がらせてきた。
これまで、芸術祭のために作られた作品は延べ約1000作品。今回はインスタレーションやパフォーマンスを含むアート作品約300点を展示する。また、作品のほか食や温泉、お祭りなど地域に根ざした文化や観光、地域住民との交流も楽しみ。
作品鑑賞パスポートは一般3500円、高・専・大学生3000円。問い合わせは「大地の芸術祭実行委員会事務局」(十日町市本町分庁舎内)(電)025・757・2637。または大地の芸術祭東京事務局(アートフロントギャラリー内) (電)03・3476・4360。