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年初め 身を律して徳養う 鈴木日宣

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年初め 身を律して徳養う 鈴木日宣

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日蓮宗系の尼僧、鈴木日宣(すずき・にっせん)さん=千葉県内(財満朝則撮影)  【尼さんの徒然説法】

 年が明けて初めての朝は、空の青さも透き通った風も、そして恩恵あふれるお日さまの光も、すべてが真新しく感じられます。毎日聴いている小鳥のさえずりも元日だけは特別。妙(たえ)なる調べのようにさえ聞こえるのですからまことに不思議なものです。

 ストイックではなく

 「正月の一日は日のはじめ、月の始め、としのはじめ、春の始め。此をもてなす人は月の西より東をさしてみつがごとく、日の東より西へわたりてあきらかなるがごとく、徳もまさり人にも愛せられ候なり。」

 これは日蓮聖人のお言葉。「一年の一切の初めである正月を大切にお迎えする人は、その志によって自身の福徳を豊かにすると共に、人からも愛され慕われていく」ということです。年々、お正月らしさが薄らいでいるようで物寂しく思います。このようにお正月を大切に迎え、人としての徳を養ってまいりましょう。

 お正月を大切にする人は周りの人々や一日一日を大切にし、身を律する人でもあるからこそその福徳により人からも愛され慕われるのです。身を律するということはストイックさを求めているわけではありません。「悪いことを止め、善(よ)いことをすすんで行っていく」ということです。「なんだ。そんな簡単なことか」と思うかもしれませんが、きちんと実践できる人はそう多くはないものです。仏教では悪いことと善いことについて「十悪と十善」を説いています。

 十悪とは、

 一、殺生(せっしょう)…ゆえなく生き物の命を奪うこと。また親や周りの人たちに心配をかけたり弱い者をいじめること。

 二、偸盗(ちゅうとう)…他人の物を盗むこと。

 三、邪淫(じゃいん)…不倫のこと。

 四、妄語(もうご)…人の迷惑になる、または困るような嘘をつくこと。

 五、両舌(りょうぜつ)…二枚舌のこと。

 六、綺語(きご)…人の心を挑発するように物事を大げさに話すこと。みだりに飾り立てた誠実さのない言葉のこと。

 七、悪口(あっく)…人が傷つく言葉や乱暴な言葉など。

 八、貪欲(とんよく)…貪(むさぼ)り。必要以上に物を欲すること。

 九、瞋恚(しんい)…自分の心に逆らうものに怨(うら)み憎しみ怒ること。

 十、邪見(じゃけん)…因果の道理を否定する自分勝手な見解。

 この十悪を犯さないことが直ちに十善となります。

 反省してこそ向上

 現在の世の中で過ちを犯さない人間は皆無に等しく、私たちは「身体」と「言葉」と「心」でこの十悪を犯してしまいます。しかしこれからもしこの十悪を犯してしまったらすみやかに反省し心を改め、二度と同じ過ちを繰り返さないように努力致しましょう。孔子は「過ちて改めざる。これを過ちと謂(い)う」と仰せになりましたが、その過失をそのままにしてしまわずに、反省して向上心につなげていく人の人生は、大きく良い方向へと必ず変わっていくはずです。

 年の初めは新たなスタートラインでもあります。昨年の自分を振り返り、十悪に照らし合わせて反省すべき点は反省し、今年は確実に十善を積む努力をし、心豊かに、そして穏やかな一年を歩んでまいりましょう。

 ≪十善積み 人のために生きる人生を≫

 あるお経の中に次のようなお話があります。「雪山(せつせん)のふもとに寒苦鳥(かんくちょう)という鳥が住んでいました。この鳥は巣を持たず、夜になるとあまりの寒さに『明日は必ず巣を作ろう』と鳴くのです。しかし太陽が出て温かくなるとすっかり寝てしまい、また夜の寒さに責められては『明日こそ巣を作ろう』と鳴いて一生を終えてしまうのです」と。

 皆様も身に覚えがありませんか。「明日はこうしよう」と何かを決心しても、翌日にはその決心もにぶり、結局できずじまいになってしまったということが。私たちの心はとても弱く、この雪山の寒苦鳥のように「明日こそ」と思いながら何もできずに一生を虚(むな)しく過ごしてしまうものです。

 日蓮聖人は「人間も寒苦鳥と同じである。地獄に堕(お)ちて炎にむせぶときは『もし今度人間に生れたら諸事を閣(さしお)いて仏様の教えに従って善業を積もう』と願うけれど、たまたま人間に生まれて来るときはそんな願いも忘れ、財産や社会的地位を追い求めることに一所懸命になり、善業を積もうとはしないものだ」と仰せになりました。

 仏様のお教えに触れ、それを守り自己を磨くことが善業を積むことです。今生の善業は来世の幸福につながります。せっかくこの世に人間として生まれたのですから十善を積み決して雪山の寒苦鳥にならないように注意し、世のため人のために生きる人生を歩んでいただきたいと願っています。(尼僧 鈴木日宣(にっせん)/SANKEI EXPRESS

 ■すずき・にっせん 1961(昭和36)年6月、東京都板橋区生まれ。音楽が好きで中学では吹奏楽部に入りクラリネットを担当。高校生の時、豊島区吹奏楽団に入団。音楽仲間とともに青春時代を過ごす。

 7年間社会人を経験したあと内田日正氏を師として26歳で出家。日蓮宗系の尼僧となる。現在は千葉県にある寺院に在住し、人間界と自然界の間に身をおきながら修行中。

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