ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
トレンド
日本の美は懐が深い 家康四百忌 輝き戻った東照宮
更新
(大出一博さん撮影) 彼女は日光東照宮・唐門の前に立っている。白に金を組み合わせた、華やかなデザインの建築である。
この、一種の金ピカ趣味ともいえる華やかさについては、好き嫌いが激しい。「嫌い派」の代表は、1933年に日本を訪れたドイツ人建築家、ブルーノ・タウトである。彼は日本の美学を2つに分類した。桂離宮、伊勢神宮に代表されるシンプル派はすばらしいが、日光東照宮に代表される悪趣味は許せないとしたのである。さらに彼は桂離宮や伊勢神宮の背後には天皇家の美学があり、東照宮の背後には、江戸の将軍の俗悪趣味があると断定して、日本の美学と政治とを強引に結びつけたのである。
実は僕も、若い頃はタウトの分類に100%賛成だった。しかし最近、東照宮の金ピカも、結構面白いと感じるようになった。
日本の美は実は多様である。ワビ・サビや渋さだけではなく、想像以上に、懐が深い。金色が、畳に反射した弱い光を受けて闇の中に浮かびあがる様子に日本の空間表現のひとつの頂点を見出したのは、「陰影礼賛」を書いた谷崎潤一郎である。日光のあの深い杉林の中に東照宮の金色が立ちあがるのをみて、僕は戦慄を覚えた。この唐門もまた、着物と同様に日本の美のひとつの頂点である。(エッセー:建築家 隈研吾(くま・けんご)/撮影:ファッションプロデューサー 大出一博(おおいで・かずひろ)/SANKEI EXPRESS)
≪家康四百回忌 輝き戻った東照宮≫
唐門は日光東照宮で最も重要な御本社(ごほんしゃ)の正門だ。全体に白い胡粉(こふん)が塗られ、彫刻や飾り金具によって凝りに凝った装飾が施されている。江戸時代には、将軍に拝謁ができる御目見得(おめみえ)以上の身分を持つ幕臣や大名だけがくぐることを許された特別な門であり、現在でもごく限られた機会しかその門が開けられることはない。写真では女性の左側が唐門の扉で、右側に続く彩色の美しい塀は、内部を透かして見られることから透塀(すきべい)と呼ばれている。
今年、日光東照宮は特別な一年を迎えた。祭神である徳川家康(1543~1616年)の四百回忌にあたり、年間を通じて400年式年大祭のさまざまな行事が行われるからだ。そのメーンイベントとも言えるのが、5月17日の式年大祭。普段は固く閉じられている唐門の扉が開け放たれ、徳川宗家18代当主や徳川御三家の当主らが一堂に会して御本社に昇殿する。続いて東照宮の祭神が神輿3基に分乗して日光二荒山神社に出向く「宵成祭」が行われ、翌18日には神輿や甲冑をまとった武者たちが家康が静岡の久能山から日光に改葬された際の行列を華やかに再現する「千人武者行列」が繰り広げられる。祭儀は夏や秋にも予定され、3月14日には新宝物館が開館する。
唐門は2007年から13年まで続いた「平成の大修理」で伝統技術を受け継ぐ現代の職人たちが彩色や金箔を新調し、400年前に建てられた当時の輝きを取り戻した。紫檀や黒檀などの寄木細工で作られた竜をはじめ、「舜帝朝見の儀」や「許由と巣父」など故事をモチーフにした600を超える彫刻にはそれぞれ意味があり、美と知のあり方を考えさせてくれる。ずいぶん前の修学旅行のとき以来、日光東照宮から遠ざかっている方がいたら、400年式年大祭の機会に、ぜひ再訪をおすすめしたい。(佐野領/SANKEI EXPRESS)
着る人:朋子、RIO
ヘア:air
メーク:ワミレスコスメティックス
スタイリスト:ユキコ・グレン
衣裳:鈴乃屋 (電)03・5807・6683 www.suzunoya.com
撮影地:日光東照宮 唐門 〒321-1431 栃木県日光市山内2301