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【RE-DESIGN ニッポン】素直でシンプルなオーガニックコットン
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オーガニックコットンで作られた赤ちゃん用のおくるみ「十月十日布」。コットンが種から綿糸になるまでの期間と妊娠期間が同じ十月十日ということから名付けられた(提供写真) 日頃身に着けている衣服の素材として、最も身近な天然素材であるコットン。古来、世界中の人間はこの天然素材を身に着け、日本でも16世紀以降に三河地方をはじめとした肥沃(ひよく)な地域で大量に生産され、着物から肌着まで日本人の暮らしに深くなじんできた。「Re-design ニッポン」の第8回は、この身近な素材とその生産現場を取り上げる。
日本で消費されるコットンのうち、99%以上が原料となる綿花の栽培過程で農薬や殺虫剤を使い、生産過程では化学漂白剤などが大量に用いられている。世界全体で用いられる農薬全体のうち、15%以上が綿花栽培に使われているほどだ。また栽培過程では、大量の水を必要とする。雨量が少ない地域では灌漑(かんがい)で生産するようになっているが、結果として地下水や河川などが枯渇する事態を招いている。さらに生産過程で大量の化学漂白剤を用いるため、水質の悪化のみならず、着用時にアレルギー症状などを引き起こすこともある。
つまり、植物性の天然素材であるコットンは、事実上、工業製品になっているのである。本来の天然素材のコットン製品の良さを伝えるために、生産過程からこだわって作り続けている奈良・大和高田の「村上メリヤス」を訪ね、社長の村上恭敏さん、奥さんの令子さんのお話をうかがった。
村上メリヤスは明治初期に創業し、肌着などを生産してきた会社であり、現在も家族経営でメリヤス生地や製品を作り続けている。
メリヤス織自体は江戸時代に日本に伝来し、優れた伸縮性から武士の足袋などに用いられてきたという歴史があり、明治以降も肌着や靴下など伸縮性が必要な衣類などに活用されてきた。日本の綿花栽培は1930年代に世界一の生産量を誇ったが、次第に安価なアジア産や化学繊維などに押され、現在の統計上の国内自給率はゼロになっている。
そんな統計には出てこないが、村上メリヤスでは、自宅兼工場の裏にある農場で綿花を栽培し、メリヤス生地や製品を作っている。農薬や化学肥料などを一切使わない「オーガニックコットン」である。雑草の駆除なども含め、生産過程をすべて自分たちで管理するため、現在の2反ほどの規模以上に生産量を増やすことは困難だという。自社農場から生産されるオーガニックコットンは、種子から村上さんたちが常に気を配り、丁寧に育て上げた製品なのだ。
このオーガニックコットンから生み出されるストールやハンカチは、肌に触れてみるとすぐに分かる。肌触りが良い、というより肌になじむ柔らかさである。漂白剤なども一切使用されていないため色合いは乳白色だ。和紙でも同じことが言えるが、自然由来の白は本来、こうした色なのである。漂白されていないため、女性の肌はもちろん、赤ちゃんの肌にも非常に優しい。そのため、新生児の「おくるみ」としても人気なのだという。
村上さんは「人に優しいものづくりは、自然にとっても優しいものづくりであるはずです」と話す。目の届くところで丁寧に育てた素材で作られたものを身に着ける。村上さんのものづくりは、そんなシンプルでムダがなく、本来、人が大切にしてきたものだ。工業化された現在の社会ではすでに失われてしまったものづくりでもある。
村上さんは「自社農場での綿花の栽培に参加し、一緒にものづくりの体験をしていくメンバーを少しずつ広げていきたい」という思いから「MY 棉の木プロジェクト」を立ち上げて取り組んでいる。統計上はゼロになってしまった国産の綿花栽培は、日本文化の源流となった奈良の地で、少しずつよみがえろうとし
ている。(「COS KYOTO」代表 北林功/SANKEI EXPRESS)