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【RE-DESIGN ニッポン】繊細なズレが生み出す西陣絣
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西陣独特の極細の絹糸がピンと張られている。この繊細さが作り出す模様が西陣の絣(かすり)の最大の魅力だ=2014年9月13日(提供写真) 絣(かすり)織物といえば、備後絣、伊予絣、久留米絣といった産地が知られており、木綿や麻が材料の中心である。そして京都の織物では豪華絢爛な帯に代表される西陣の織物が世界的に知られているのだが、この西陣でも絹を使った絣織物「西陣絣」がある。「Re-design ニッポン」の第7回は、京都ならではの絣織物を受け継ぐ現場を報告する。
絣織物はインドが発祥とされ、アジアをはじめ世界各地で親しまれてきた。日本では江戸時代に掠れた模様を織る方法が開発され、各地で量産された。もんぺなどの日常着として親しまれてきた木綿や麻の絣織物に対して、西陣絣は和服のお召(略礼装)として高級品の扱いを受けてきた。その違いは、西陣ゆえの極細の絹を用いた繊細な模様にある。今回は、絣加工の伝統工芸士でもある水上政行さんの工房「水上絣加工所」を訪ねた。
絣は、あらかじめ模様に従って染め分けた絣糸(染める部分と染めない部分を紙やゴムでくくり、染め分けた糸)を、わざと微妙にずらしてボカシ模様を作りだす。これはどの産地でも行われていることだが、西陣の場合は、まず素材として、木綿や麻ではなく、絹を用いる。絹糸は木綿や麻よりもはるかに細いため、より繊細なグラデーション表現が可能となるのだ。
この表現を可能とするのが、西陣絣独自の「はしご」と呼ばれる装置である。30センチほどの幅に数千本の糸を25~100段もの「はしご」を使って絵柄を少しずつずらし、美しい模様を描き出すのである。
西陣の絣工房はピーク時には120軒ほどあったが、今は7軒ほどだという。専門職による分業体制は市場が大きい時には効率的に機能したが、需要が減少した現在では、ひとつの工程ができなくなると、次の工程が連鎖的にできなくなるというデメリットが生じてしまう。実際、水上さんが絣を作るときには、糸染めなど他の職人とのチームワークが大切なのだが、実際の作業を進めるためには、工程を維持するだけの市場開拓と各工程を理解して調整するコーディネートが大切になる。
西陣絣しか出せないこの美しい模様を求めて、海外の有名ブランドの担当者が水上さんを訪ねてくるという。以前にあるブランドの依頼で水上さんの工房が手がけたグラデーションの生地は「技術的にはお召を作るより楽。しかし、こういう模様を作ろうという発想はなかった」そうだ。
海外ブランドの担当者が発注にくるほど、西陣絣の技術や素材が持っている可能性は大きい。つまりニーズと発想が技術と素材と結びつくことで可能性が開けるのである。しかし、日本国内はもとより、海外にも西陣絣はその存在が知られていない。これが分業制の一つのデメリット部分でもある。工程の中で素晴らしい素材と技術が隠れてしまっているのである。
10月に米北西部ポートランドを訪ね、現地のファッションブランドに西陣絣のサンプルを見せたところ、非常に興味を持ってくれた。彼らのニーズに合わせた西陣絣の製作を水上さんの工房で始めたところだ。技術と素材、そして現代の感性のグローバルな結びつきという新たな分業制の構築が求められているのだと実感している。(「COS KYOTO」代表 北林功(いさお)/SANKEI EXPRESS)