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連続テロ 人質救ったマリ男性に特例措置 「私たちは兄弟」英雄に仏国籍
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ジョン・ケリー米国務長官とアンヌ・イダルゴ・パリ市長の会談会場に招かれ、報道陣や多くの市民に取り囲まれるラッサナ・バティリさん=2015年1月16日、フランス・首都パリ市役所(AP) フランスの風刺週刊紙「シャルリー・エブド」襲撃事件に続き、9日にパリ東部のユダヤ系食料品店で起きた立てこもり事件で、客を安全な場所にかくまって命を救った西アフリカのマリ男性店員のフランス国籍取得が特別に認められることになった。無事解放された人質たちから「陰のヒーロー」と呼ばれたこの男性店員をベルナール・カズヌーブ仏内相(51)は声明で「勇気のかたまり」と称賛。20日には内務省内で「フランス市民として迎え入れる」特別の式典が行われる。
この男性店員は、フランスの旧植民地であるマリ出身のラッサナ・バティリさん(24)。マリ国民のほぼ8割がそうであるように、バティリさんもイスラム教徒で、2006年からフランスに居住、昨年7月に国籍取得を申請した。しかし、なかなか許可が下りない状態が続いていた。
シャルリー・エブドを襲撃したサイド・クアシ容疑者(34)とシェリフ・クアシ容疑者(32)の兄弟と連動したアメディ・クリバリ容疑者(32)が9日午後1時すぎ、食料品店に押し入った時、店には店員と客ら約20人がいた。フランス通信(AFP)などによると、地下にいて「銃声が聞こえ、同僚や買い物客が走って行くのが見えた」というバティリさんは、とっさに「来い、来い」と声をかけて3歳の幼児を含む客6人を地下の大型冷蔵庫の中に誘導。照明や冷気も消して、声も潜めるように客に指示した。
クリバリ容疑者が1階で「地下にいる者は上がってこい」と命令すると、バティリさんは「今行く」と返答。大型冷蔵庫の中の客には「私が行くから大丈夫」と伝えて業務用エレベーターで1階に上がり、一瞬のすきを突いて外に脱出した。
脱出当初は犯人の仲間かと警察に疑われたが、状況を説明し、立てこもりの様子や人質が隠れている場所などを図面を描いて伝えたという。立てこもりは警察隊が強行突入するまで約4時間に及び、この間、クリバリ容疑者から銃を奪おうとして抵抗した男性ら4人が殺害されたが、冷蔵庫に隠れた6人は最後まで無事で、解放後、異口同音にバティリさんに「命の恩人」と感謝した。
この一部始終が仏メディアで報じられると、ネット上で、バティリさんにフランス国籍を与え、さらにレジオン・ドヌール勲章(国家勲章)も授与しようという署名運動が起こり、16日までに32万人が署名した。カズヌーブ内相は「国籍取得申請を至急処理し、認可するよう指示した」と話し、フランソワ・オランド大統領(60)も、バティリさんに直接電話して勇気をたたえた。16日、パリでオランド大統領と会談した米国のジョン・ケリー国務長官(71)も「時として、ごく普通の人が偉大なヒーローになる。今回もそうだった」と、バティリさんの勇気ある行動に言及した。
バティリさんは仏テレビ局BFMTVに「私はユダヤ人をかくまったんじゃない、人間をかくまった。私たちは兄弟だ。ユダヤ教か、キリスト教か、イスラム教かの問題じゃない。危機の時は互いに助け合わなければならない」と語った。
テロ事件の影響で欧州では、移民やイスラム教を排斥しようとする動きが広がっているが、シャルリー・エブド襲撃時に殉職した警察官の1人やバティリさんを含めイスラム教徒やアフリカ系の移民もまた、テロと戦っていたという事実を忘れてはならない。(SANKEI EXPRESS)