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噴火で黒こげ古代ローマ巻物 X線で解読 ポンペイ近く300本 哲学者が執筆か
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炭化した古代パピルス紙の巻物を眺める来館者=2015年1月20日、イタリアのナポリ国立図書館(AP) ユネスコの世界遺産で知られるイタリア・ナポリ近郊の古代都市ポンペイを一瞬で廃虚に変えた紀元前79年のベスビオ火山の大噴火。この噴火によって真っ黒に炭化したパピルス紙の巻物文書の解読にイタリアの科学チームがめどをつけたことが21日、分かった。乳がんの早期発見に用いられる「マンモグラフィー」の技術とよく似た3D(3次元)のX線撮影技術を駆使し、10年以内に内容を解読するという。欧米では昨年、栄華を極めたポンペイの街が一夜にして滅びるさまを描いた映画が大ヒットするなど、当時の生活様式は今も多くの人々の歴史ロマンをかき立てる存在であり続けている。炭化した巻物文書は全部で約300本あり、この都市にまつわるさまざまな謎が約2000年ぶりに初めて解明される可能性が出てきた。
英BBC放送やフランス通信(AFP)、米紙ニューヨーク・タイムズ(いずれも電子版)などによると、解読にめどをつけたのは、イタリア研究評議会(CNR)に所属するマイクロエレクトロニクス・マイクロシステム研究所(IMM、所在地ナポリ)などの研究チームで、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに成果を論文として発表した。
炭化した巻物文書は260年前、ポンペイの近くにあった古代都市ヘルクラネウムの邸宅「パピルス荘」の書庫から見つかった。この邸宅は、帝政ローマの礎を築いたジュリアス・シーザー(紀元前100~紀元前44年)の義父で、裕福だった政治家、カルプルニウス・ピソ・カエソニヌスが所有していたとみられている。
大噴火によって、ポンペイは火山灰の分厚い層の下に埋もれたが、ヘルクラネウムには300度以上の高温の火山ガスが押し寄せ、巻物が一瞬で黒こげに炭化した。米ネイチャー系雑誌ナショナル・ジオグラフィック電子版によると、巻物文書は800本見つかったが、炭化状態のため非常にもろく、運搬や調査研究の過程で多くが壊れ、約300本に減ってしまった。
解きほどこうとすればたちまち壊れる約20センチの巻物が相手とあって、そこに書かれた文字の解読は不可能だと思われていた。研究チームを率いるIMMの科学者、ビト・モセラ博士も「(肉眼では)炭化した巻物も文字もほぼ同じ(黒一色の)状態」で、解読は半ば諦めていたと振り返る。
しかし、研究の結果、文字のインクはパピルスの繊維に染み込んでおらず、1ミリの10分の1の厚さで紙の上に残ったままで、特殊な器具を使えば「文字が鮮明に読める状態」であることが判明。「マンモグラフィー」技術とよく似た3DのX線撮影技術での解読が可能との結論に達した。
モセラ博士はAFPなどに「この技術はまだ完璧ではなく、さらなる改善に向け多くの実験を行う」としつつも、「正確な予測は常に困難だが、必要な資源などが供給できれば、巻物は10年以内に解読できるはずだ」と語った。
巻物の多くは、「快楽主義」で知られる古代ギリシャの哲学者、エピクロス(紀元前341~紀元前270年)が記したものだと考えられている。このため、巻物の解読によって、エピクロスが古代ポンペイの人々の思想に与えた具体的な影響や当時の暮らしぶりの一端が初めて明らかになると期待されている。また古典学者らは、新たなラテン文学やギリシャ文学の発見につながるチャンスとみているという。(SANKEI EXPRESS)