SankeiBiz for mobile

「象徴」奪還 勢力誇示狙う 日本人殺害脅迫 「イスラム国」要求

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの政治

「象徴」奪還 勢力誇示狙う 日本人殺害脅迫 「イスラム国」要求

更新

2005年11月10日、ヨルダン・首都アンマンでサジダ・リシャウィ死刑囚が自爆テロを図ったホテルの外に立つ警察官(ロイター=共同)  イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」による日本人殺害脅迫事件は、後藤健二さん(47)と湯川遥菜(はるな)さん(42)の拘束が表面化してから27日で1週間。イスラム国側の要求が身代金からヨルダンに収監中のイラク人女性、サジダ・リシャウィ死刑囚の釈放に変わり、政府は複雑な対応を迫られているが、リシャウィ死刑囚が突然登場したのは、釈放されればイスラム国にとって“宣伝効果”が極めて大きい人物だからだ。

 また、イスラム国内部では、2003年からのイラク戦争でテロ闘争を展開したザルカウィ容疑者(06年に米軍が殺害)系の人脈が主流派を形成しているとの事情が浮き彫りになった。

 超有名テロリスト

 05年11月9日夜、ヨルダンの首都アンマン。高級ホテルで開かれていた結婚披露宴に、イラク人夫婦が紛れ込んだ。妻は体に巻き付けた爆弾の起爆に失敗。夫は妻を式場外に押し出した後、自爆した。生き残った妻がリシャウィ死刑囚だ。

 このホテルなど3カ所で約60人が死亡したヨルダン史上最悪のテロ。リシャウィ死刑囚は、イスラム国の前身「イラクの聖戦アルカーイダ組織」の元指導者、ザルカウィ容疑者の側近のきょうだいとされる「大物」(地元記者)だ。イスラム国やアルカーイダなど、イスラム過激派に関わる人間なら、誰もが知っている超有名テロリストと言っていい。

 仏襲撃事件に焦り

 イスラム国にとってみれば、組織のルーツにつながる象徴的人物を“奪還”できれば、PR効果は絶大で、衰えてきている勢いを再興できると考えているに違いない。特に、フランスの風刺週刊紙「シャルリー・エブド」襲撃テロ事件が、対立するライバル「アラビア半島のアルカーイダ」の主導で起こされた直後だけに、何かセンセーショナルなことを巻き起こし、反転攻勢のきっかけとするもくろみだろう。

 ただ、ヨルダンではかねて、イスラム国側が拘束しているヨルダン軍パイロットとリシャウィ死刑囚の交換構想が取り沙汰されており、後藤さんが優先して解放対象となる余地は小さいとみられる。もし、実現するとすれば、複数同士での交換だが、これもヨルダン国民の反発を招く恐れがあり、アブドラ国王(52)にとって難しい選択肢だ。

 ザルカウィ系主流か

 一方、イスラム過激派運動に詳しい研究者らは、今回の事件でイスラム国がザルカウィ人脈に属するリシャウィ死刑囚釈放を求めたのは、「旧ザルカウィ派の力が増している表れ」だと指摘する。ヨルダン出身のザルカウィ容疑者は04年、アルカーイダに忠誠を誓い、自身が率いていた過激派グループを「イラクの聖戦アルカーイダ組織」と改名。その後、多くのテロ事件を首謀し、05年には、リシャウィ死刑囚も関与したヨルダンの首都アンマンでのホテル連続テロ事件も起こしている。

 しかし、ザルカウィ容疑者が06年、死亡すると、後継者のアブアイユーブ・マスリ容疑者と分裂した非ザルカウィ派など複数の組織が合流し、上部組織「イラク・イスラム国」を結成。しばらくはマスリ容疑者率いるザルカウィ派と非ザルカウィ派が並び立つ体制が続いたが、両派の指導者が10年、米軍などの掃討作戦で同時に死亡すると、イスラム国はさまざまな勢力の混成組織になっていった。

 現在、イスラム国の組織は一枚岩ではないだけに交渉ルートの確立は容易ではないが、ザルカウィ派の人脈を地道にたどる労苦は必要だ。(SANKEI EXPRESS

ランキング