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景色変える「ささやかな魔法」 ガブリエル・オロスコ展〈内なる複数のサイクル〉

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景色変える「ささやかな魔法」 ガブリエル・オロスコ展〈内なる複数のサイクル〉

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「ピン=ポンド・テーブル」(1998年)金沢21世紀美術館蔵=2015年1月23日(原圭介撮影)  【アートクルーズ】

 訪れた場所で出合った物に少しだけ手を加え、ユーモアや詩情があふれる景色をつくり出すガブリエル・オロスコ(1962年~)。俳句を詠むような創作の軽妙さ、鋭敏さが、国籍を超え、評価を高めている。日本で初めての大型個展がいま、東京都現代美術館(東京都江東区三好)で開かれ、話題を集めている。

 「島の中の島」は、ニューヨークのマンハッタンのビル街を背景に、誰も見向きもしない木片や石のゴミを使って、新たな“摩天楼”を築いた。一見、子供たちが作った模型のようでもあり、どこかメルヘンチックな風景にも見えるが、深読みをすれば、マンハッタンのビル街こそが地球上の巨大なゴミにも思えてくる。

 「猫とスイカ」はもっと楽しい。キャットフードの缶詰だろうか。しま模様のスイカの上に並べられただけで、缶詰とスイカは一体化してカワイイ猫の群に見えてくる。色合いの美しさも印象的な作品だ。

 オロスコは、簡易なカメラ以外に何も持たずに旅に出る。現地で出合った風景と、手に入れたささやかなものを材料に、少しだけ手を加え、魔法のように新しい風景(アッサンブラージュ)を作り出す。そして写真に納める。

 俳句の吟行のように、訪れた場所で創作するという即興の精神は、今回の展覧会でも発揮された。展示会場の壁に、フタのついたカップヌードルの容器が「ヌードル・フォール」という名前で展示されている。「フタの絵がまるで抽象絵画のようだった」といい、ふたにプリントされたヌードル(うどん)を垂直に流れ落ちる「滝」になぞらえた。

 缶も果物も体も「器」

 オロスコは、開幕日の1月24日、講演会の中で、自分の作品について語った。その中でたびたび出てきた言葉は「器(うつわ)」あるいは「容器」。

 オロスコによれば、缶や果物、箱そして自分の体までもが「器」なのだという。その器の中に、さまざまなものを盛りつけ、満たしていくことが創作だというのだ。こうした考え方も日本の「見立て」に通じるものがある。

 しかし、オロスコの作品は、メキシコ出身という国籍の独自性や言葉の壁、歴史観などの違いが感じられず、国籍を超えて分かりやすい表現だ。さらに戦後から1960年代ごろまでのアートに顕著だった破壊性や攻撃性は薄らいで、親和性や叙情性(詩情)が伝わってくる。そのことが、国際的に愛される理由だろう。

 毛色は違うが、自動車のシトロエンを3分割し、中央の3分の1とエンジンを取り除いて2人乗りに組み立て直した「La DS カーネリアン」(2013年)も、自動車という「器」に働きかけた作品といえる。

 シトロエンDSは1955年に発表されたフランスの乗用車。約20年間、仏車の主軸を支え、未来を紡ぐ車として人気を集めた。オロスコは「器」の形を変えることで、鑑賞者が抱いてきたDSに対するイメージを変えようとしている。

 「ルール」も変化させ

 自らの働きかけで、何かを変えていく手法は、ルールに対しても行われる。例えば「ピン=ポンド・テーブル」は、卓球台2台が十字に組み合わされ、台の端が丸くカットされている。さらには中央に池が設けられ、花まで浮かべられた。4人(8人?)で普通にピンポンをするのか、別な競技をするのか。池に球が入った場合、どんなルールにするのか? 見る人はさまざまな考えを巡らすことになる。

 オロスコはほかにも、ナイトの駒だけで遊ぶチェス盤なども作っているが、「サムライ・ツリー20H」は、そのナイトの駒の動きを描法に転化した作品。オロスコはカンバスの中心点から4つの色を使って描き始め、斜め2マス先に進めるナイトの法則に従って展開させたという。「武士に二言はない」という、一度決めたら最後まで(描法を)貫くという精神から「サムライ」と名付けた。

 「世界の循環」表現

 オロスコのもう一つのこだわりが「循環」。サムライ・ツリーにも円が描かれているが、多くの作品に円や回転が登場する。

 飛んでいる姿を表現するように、いくつものブーメランを壁のぐるりに貼り付け、天井に設置されたシーリングファン(扇風機)にトイレットペーパーを付けて回転させる「ベンチレーター/インナー・カット」は、ブーメランの回転とトイレットペーパーの回転が同調する。

 本人いわく「始まりのところで終わる。見ている人が作品の中心に来るようにした」。こうした循環は、「世界(地球)の循環」も表している。(原圭介、/SANKEI EXPRESS

 ■Gabriel Orozco 1962年、メキシコ生まれ。メキシコシティの国立美術院で学ぶ。1993年、ニューヨーク近代美術館で初のプロジェクト展。以降、国内外の美術展、国際展に出品。現在、ニューヨーク、パリ、メキシコシティに居住する。

 【ガイド】

 ■「ガブリエル・オロスコ展〈内なる複数のサイクル〉」 5月10日まで、東京都現代美術館(東京都江東区三好4の1の1)。一般1100円。(電)03・5777・8600(ハローダイヤル)。

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