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アインシュタインの再来と言われたホーキング 車椅子から宇宙を見破ろうとした男の勇気 松岡正剛

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アインシュタインの再来と言われたホーキング 車椅子から宇宙を見破ろうとした男の勇気 松岡正剛

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【BOOKWARE】編集工学研究所所長、イシス編集学校校長の松岡正剛さん=9月14日、東京都千代田区の「丸善丸の内店内の松丸本舗」(大山実撮影)  【BOOKWARE】

 車椅子の宇宙物理学者スティーブン・ホーキングの半生を描いた映画ができたようだ。奥さんのジェーンの著書をジェームズ・マーシュが監督してラブストーリーに仕上げたらしい。それも一興だが、やはりホーキングについては、その宇宙論を一度くらいは覗いてみておいたほうがいい。

 最初に言っておくが、ホーキングがALS(筋萎縮性側索硬化症)に罹ったことがわかったのは、ケンブリッジの大学院1年目をおえたときである。それから数年間で、ホーキングの仮説はほぼできあがっていた。アインシュタインもハイゼンベルクもそうだったように、物理学者が仮説に到達するのは25歳前後までなのだ。ホーキングもそれにまにあった。

 最初に取り組んだのは、宇宙全体の尺度にかかわる相対性理論と、極度に小さい尺度の現象を記述する量子力学とをつなげるとどうなるかという、「重力の量子論」に関することだった。その突破口には、宇宙がビッグバン以前にどんなものだったかという超めんどうな問題が控えていた。ビッグバン以前の宇宙なんて、ほんの一瞬の出来事である。ホーキングはロジャー・ペンローズとともに、時間の始まりを仮説しようと考えた。

 二人が編み出したのは、時間の最初は無限大の密度と時空歪曲率がつくりだした特異点だったのではないかというものだ。特異点定理と名付けられた。しかし、これでは相対性理論と量子論がうまく噛み合わない。そこで次には虚時間を想定した。宇宙の最初をとことん追いかけると時間は0になって、無が入ってしまう。無がまじったのでは科学も数学もない。だったら0以前までを虚時間として入れて、それで数式を組み立てようというのだ。これなら計算可能なのである。

 その後、この仮説にはいささかムリがあることがわかってきた。しかしホーキングはまったく怯(ひる)んでいない。それどころか、宇宙138億年の歴史を科学者が語れるとはどういうことなのか、その必然性の解明に乗り出した。そのことを電子仕掛けのプログラム「リヴィングセンター」を介して語るホーキングを、ぼくは朝日ホールでナマで見たことがある。なんとも輝くような執念と勇気を感じた。それからというもの、ぼくはすべてのホーキングものを読んできた。

 【KEY BOOK】「ホーキング、宇宙を語る」(スティーブン・ホーキング著、林一訳/ハヤカワ文庫、799円)

 オックスフォードを首席で卒業し、ケンブリッジの大学院で難病が発覚したホーキングは、学生時代からブラックホールにとりくんでいた。アインシュタインの重力場方程式の特別な解として知られるブラックホールは宇宙創成当初の秘密を握っていた。本書はそのブラックホールの特質からビッグバンまで降りていく当時最新の宇宙物理学のエッセンスを語って、興奮させてくれた。ときになんともいえないユーモアが滲んでいたのが忘れられない。

 【KEY BOOK】「時空の本質」(スティーブン・ホーキング&ロジャー・ペンローズ著、林一訳/早川書房、1728円)

 ペンローズはホーキングの博士論文の審査を担当した。その二人が量子重力理論の構築に挑戦した。二人の関心は時空(時間と空間の連続体)の究極の姿には、ふだんの時空のどこかにひそむ特異点があらわれているはずだというものだった。イギリスが生んだ二人の天才師弟が何を取り交わすかを見る刺激に満ちていて、一言も見逃したくなくなる。とくにブラックホール蒸発仮説に注目だ。

 【KEY BOOK】「宇宙への秘密の鍵」「宇宙に秘められた謎」「宇宙の誕生」(スティーブン・ホーキング&ルーシー・ホーキング著、さくまゆみこ訳/岩崎書店、各2052円)

 ホーキングの娘のルーシーが手伝って宇宙の謎を解く旅を3冊に構成した。ホーキング流の独特の宇宙論入門として、お薦めできる。とくにビッグバン以前に宇宙が急速に構造をめざしたインフレーション理論と、そのとき宇宙は「泡」のような状態をつくっていたという泡宇宙論を、ホーキングがどういうふうに裁断するかというところがミソ。この3冊を子供と一緒に遊べるなら、上々だ。

 【KEY BOOK】「ホーキング 虚時間の宇宙」(竹内薫著/講談社ブルーバックス、950円)

 ホーキングものが数あるなかで、本書が一番読みごたえがある。ビートたけしの数学番組でもおなじみの竹内君は、すばらしい思考力と判断力の持ち主で、とくにペンローズに詳しい。本書は、時間の始まりぐあい、重力の陥没ぐあい、ブラックホールの蒸発ぐあいという「具合」をみごとに掴まえて、特異点理論や虚時間理論の特徴と限界を案内している。こんなに明快な宇宙物理学の本はめったにないだろう。(編集工学研究所所長・イシス編集学校校長 松岡正剛/SANKEI EXPRESS

 ■まつおか・せいごう 編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。80年代、編集工学を提唱。以降、情報文化と情報技術をつなぐ研究開発プロジェクトをリードする一方、日本文化研究の第一人者として私塾を多数開催。おもな著書に『松岡正剛千夜千冊(全7巻)』ほか多数。「松岡正剛千夜千冊」(http://1000ya.isis.ne.jp/

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