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「特殊詐欺」防げ 通信傍受を解禁へ

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「特殊詐欺」防げ 通信傍受を解禁へ

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特殊詐欺被害を防ぐために行われた金融機関の窓口での高齢者に対する声かけ訓練。被害額は昨年、500億円を超えた=2015年2月4日、兵庫県南あわじ市(藤崎真生撮影)  組織的な銃器犯罪などに限定された通信傍受が、詐欺の捜査でも解禁される見通しとなった。事件関係者の通話内容をリアルタイムで監視する通信傍受は、裁判所の令状に基づくとはいえ、詳細は明かされない捜査当局の「隠し技」。深刻な被害が後を絶たない特殊詐欺対策の切り札と期待される半面、“盗聴”の拡大には根強い懸念があり、運用にも課題が残されている。

 一網打尽を狙う

 「今日から通信傍受に協力願います」。首都圏の携帯電話会社に捜査員が現れ、令状を示した。社員の立ち会いで連日、午前10時から午後7時まで、捜査員はレシーバーを耳に当て、暴力団組員の会話を拾い続けた。

 通信傍受法で電話やメールの盗聴が認められた犯罪は、銃器犯罪や組織的殺人など4種類。暴力団「工藤会」の組織的殺人未遂事件でも、トップの関与追及の陰で威力を発揮したとされる。

 大阪地検特捜部の不祥事を機に、捜査手法の改革を検討してきた法制審議会は昨年、取り調べの録音・録画(可視化)の義務付けなどとセットで傍受対象の拡大を決定。新たに追加される窃盗や強盗などの中で、最も当局の期待を集めたのが詐欺対策だった。

 グループ内で役割分担し、偽電話で金をだまし取る特殊詐欺の被害額は昨年、500億円を超え過去最悪を記録。警察も対策を強化しているが、逮捕されるのは、電話をかける役や現金を受け取りに現れる「受け子」止まりで、主犯格や拠点の摘発はごくわずかだ。

 「犯行の全体像を知らない受け子の逮捕は“トカゲのしっぽ切り”。一網打尽にするには、容疑者同士の通話から指示系統を割り出す必要がある」(警察幹部)とされ、通信傍受導入は警察の悲願だった。

 通信の秘密やプライバシー保護の観点から、通信傍受は1999年の法成立時に強い反対に遭った経緯がある。恣意的運用への懸念は法制審でも浮かんだが、高齢者の被害実態を前に、慎重論は脇に追いやられた形だ。

 「対象犯罪の拡大は一定程度認めてもよい」。冤罪(えんざい)被害を受けて議論に加わった村木厚子・厚生労働事務次官は、可視化拡大を前提に見直しに賛同し、反対派の弁護士らも最終的に歩み寄った。

 乱用を監視する第三者機関の設置も議論されたが「裁判所がその機能を果たしている」と退けられた。

 LINEは困難

 通信傍受は各警察トップが必要性を判断し、令状請求手続きも幹部警察官に限るなど運用は厳格だ。年間数千~十数万単位で令状が出る欧米諸国に対し、国内では過去最多だった一昨年でも64件だ。

 過去には裁判所が許可しなかったケースもあり「恣意的運用などあり得ない」。傍受を行った捜査員はそう断言し「犯罪の会話はだいたい夜中や未明。電話会社の立ち会いがなければ、時間を気にせず捜査できる」と改革案を評価する一方、劇的な効果には懐疑的だ。

 ネット回線を利用したLINE(ライン)の無料電話などの傍受は技術的に困難とされ「暴力団の事件でも盗聴を警戒して、肝心のところで『この続きはラインで…』となり、主犯にたどり着けなかった。振り込め詐欺の知能犯を相手に通用するかは疑問だ」(捜査員)。通信傍受見直しに絡む法改正は今国会で審議される見通しだ。

 ≪昨年の傍受10事件、72人逮捕≫

 法務省によると、通信傍受法に基づいて全国の警察が昨年1年間に捜査で電話の会話を傍受したのは10事件で、これまでに72人の逮捕につながった。傍受は計1万3778回。2000年8月の通信傍受法施行以降では、それぞれ計99事件、525人となった。法務省は捜査機関名や事件の詳細を明らかにしていない。

 法務省によると、内訳は覚醒剤など薬物の密売・密輸が7事件、拳銃所持など銃刀法違反が3事件。銃刀法違反事件の逮捕者はゼロで、3事件とも通信傍受法が規定する最長(30日間)の傍受を実施していた。

 裁判所の令状発付は計26件で、請求は全て認められていた。傍受したのは全て携帯電話の会話だった。

 一方、13年の電話傍受で逮捕されたのは過去最多の117人で、このうち38人は14年になってから逮捕されていたことも判明した。38人のうち16人は銃刀法違反事件と組織的殺人未遂事件の逮捕者で、暴力団対策を強化したためとみられる。(SANKEI EXPRESS

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