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学びとった善いこと実践へ 鈴木日宣

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学びとった善いこと実践へ 鈴木日宣

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 【尼さんの徒然説法】

 凛(りん)とした寒さのなか、ほんのりと咲きほころぶ梅の花。寒さに身を縮こまらせている私たち人間を見て「あら。もう春よ。そんなに寒そうにしておかしいわ」とクスクス笑っているかのように花びらを揺らしています。そう。立春が過ぎて1週間。春が一歩一歩近づいているのです。頬をさす冷たい風ですが、心の中に一足早く春を思い浮かべましょう。

 大人が手本となる

 昔、ある中国の高僧が「仏の教えである『悪いことをせず善いことをする』ということは3歳の子供でもわかるが、80歳の老人でもなかなか実践できない」と言いました。たとえば「親孝行」について、どんなことが親孝行か、それがどれほど善いことであるかということをみんな知っていますが、それが「実践」となるとなかなかできません。親を大切にすることは分かっていても、つい冷たい態度をとってしまうという方も多いのではないでしょうか。古(いにしえ)より「孝経をもって親を打つ」という諺(ことわざ)がございます。「親孝行についての本を学びながらその本で親を打ちたたくようなこと」です。たとえ立派で善いことを学んでも行動に移されなければ何にもなりません。

 世の中には仏様のお教えを始め、仏教の初門にあたる論語など、道徳のお手本となるものがあります。日本では終戦前まで「修身」という「忠と孝」を中心とした道徳教育に重きをおいていました。知識を詰め込むことよりも立派な人格を育成することが大切だったからです。子供たちのお手本は学校の先生や両親であり、その人をとりまくすべての大人たちでした。礼儀作法をはじめ弱者への思いやり、老いた親の面倒を見るなどの親孝行を実践する大人たちがいたからこそ子供たちはその姿を見て自然に善悪の判断や忠や孝を実践していくことができたのです。しかし現在では個人主義、自由主義などの思想が大きく影響して「人格形成に重きをおく」という教育は影をひそめ、また子供たちにとっての「お手本」となる大人が激減しています。このような時代だからこそ「忠と孝」を持ちあわせた大人の存在が必要です。親や学校の先生を始めとする大人たちは、子供たちに尊敬されお手本となる努力をすべきではないでしょうか。

 育つ環境が必要

 「聞かざるは聞くにしかず。聞くは見るにしかず。見るは知るにしかず。知るは行うにしかず。学は行うに至りて止む」これは中国の荀子(じゅんし)という方のお言葉です。「聞かないよりは聞いたほうがよい。聞いたことは見たほうがよい。見たことは理解したほうがよい。理解したことは実践したほうがよい。学問とは最終的には実践していくことである」ということです。やはり学んだことは実際に見、そして行動に移してこそその身や心に備わっていくものですから、子供たちの忠と孝を中心とする人格形成は、大人たちの姿にかかっているのです。

 横に広がって育つ蓬(よもぎ)も麻の中にあると一緒にまっすぐに育つと言います。「麻中の蓬」という譬(たとえ)ですが、子供が立派な大人に育つための環境が必要です。世の大人たちは「麻」となり、子供たちを素直で礼儀正しく、親を大切にし、社会貢献できる立派な「蓬」に育てていこうではありませんか。

 ≪家庭でも社会でも「日常の五心」大切に≫

 「はい」という素直な心

 「すみません」という反省の心

 「おかげさまで」という謙虚な心

 「私がします」という奉仕の心

 「ありがとう」という感謝の心

 皆さまもご存じかと思いますが、これは「日常の五心」といいます。素直な心、悪いと思ったら自分をすぐに反省できる心、「みんなのおかげで自分がある」という謙虚な心、損得を考えず自らが率先しようとする心、「ありがたい」と相手に対して感謝する心。そうした心を日常的に持つように、ということです。「まるで小学生みたい」などとばかにしてはいけません。大人でも心から素直に言える人は少ないのではないでしょうか。これらは家庭においても社会においても、最重要な言葉であり、人間社会における潤滑油とも言えるでしょう。日常生活の中で大人たちが使っていれば、子供たちが感化されないはずがありません。

 師匠が「一人が100歩進むより、たくさんの人が10歩進むことが大切」と話していたことがありました。「日常の五心」はとても小さなことかもしれませんが、人としてとても大切な一歩でもあります。大人も子供も「日常の五心」を心掛け、毎日暮らしている夫婦、親子、兄弟の間でも何かをしていただいたら笑顔で「ありがとう」と感謝の言葉を発することから始めてみてはいかがでしょうか。(尼僧 鈴木日宣/SANKEI EXPRESS

 ■すずき・にっせん 1961(昭和36)年6月、東京都板橋区生まれ。音楽が好きで中学では吹奏楽部に入りクラリネットを担当。高校生の時、豊島区吹奏楽団に入団。音楽仲間とともに青春時代を過ごす。

 7年間社会人を経験したあと内田日正氏を師として26歳で出家。日蓮宗系の尼僧となる。現在は千葉県にある寺院に在住し、人間界と自然界の間に身をおきながら修行中。

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