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さまざまな曲調に悲喜こもごもを GRAPEVINE
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3人組のバンド、グレイプバイン。(写真左から)西川弘剛(G)、田中和将(Vo,G)、亀井亨(D)=2014年8月20日(提供写真) 大人が味わえる音楽を求めている人にお薦めしたいのが、グレイプバインの13枚目となるフルアルバム「Burning tree」だ。その魅力は、巧みな楽器演奏で描かれたサウンドスケープに、メロディーの音を生かした言葉と歌声とで心情を重ね、ストーリーを展開していること。曲の中に飛び込んでそのまま跳ねたり、横たわったり、泣きたくなるような、不思議な居心地の良さがある。
「曲はジャムセッションから作ることが多くて、歌詞もその曲が放つ感情に沿うものにしたいなと思っています。僕は歌詞を書くのにストックを持ってないので、みんなで演奏したりアレンジしながらじゃないと歌詞の世界観をイメージしていけないんですよね。なので、曲のストーリーみたいな方がむしろ重要かなと」(田中)
1曲目「Big Tree Song」の軸となるコードは2つほどで、マーチングのようなリズムやクラッピング(手拍子)が曲を運んでいく。そのせいか歌詞もポジティブとなり、“かなしみはこうやって鳴らした手で飛んでった(中略) その人生に乗っかった武者震いのステージフライト”と軽快に歌うフレーズが耳に残る。同じく実験的な曲で曲調が途中で変わる「MAWATA」でも、歌詞がそこに同調していく。しかも、田中が書く歌詞は一筋縄ではいかない。
「どちらかというと希望は少ない方だと思います。だからこそ、希望のあり方はすごく考えていますね」(田中)
“嘘でしょう嘘でしょう嘘でしょう/クソでしょうあなたはクソでしょう”と韻を踏む「死番虫」、“こんな世界を満たしている/ありふれた想いをさあ讃えてよ/「まだ間に合うと」誰もが抱えた負債はそのまま”と歌う「Weight」。短篇のように、痛みや微光を分かち合える言葉や情景を心に置いていく。
「結局、人生の悲喜こもごもを歌いたいだけなのでは。そこで何を思い、どういうところに憤りや挫折を感じ、それでも何をやっていくのかということを、僕は歌っているんだと思うんです」(田中)
「バンドとして常に面白いことをやっていたい」(西川)と、曲調は1980年代的なものからブルージーなギターロック、エレクトロ色強いものなどさまざま。そこに田中の歌が乗ることでグレイプバインの世界観が一気に広がる。40代に突入した彼らの歌だからこそ、思わず共感してしまう読者は多いはずだ。(音楽ジャーナリスト 伊藤なつみ/SANKEI EXPRESS)