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【RE-DESIGN ニッポン】1300年で初の和紙イノベーション

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【RE-DESIGN ニッポン】1300年で初の和紙イノベーション

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中原商店の中原剛さん。要望に応じてさまざまな和紙を漉き上げる職人だ=2014年6月9日(提供写真)  「因州筆切れず」との言葉とともに全国に知られる「因州和紙」は、鳥取県の青谷地方と佐治地方を中心に作られてきた。冒頭の言葉が示すように因州和紙は、書道用半紙として広く用いられてきた。時代の変化にあわせてさまざまな用途に対応してきたのだが、最近は1300年に及ぶ歴史の中で初めてという技術を編み出してインテリアに進出し、海外にも販路を広げ始めている。「RE-DESIGN ニッポン」の第10回は、日々の作業からイノベーションを編み出し、新たな道を切り開いている中原商店、西村製紙、長谷川憲人製紙を訪ねた。

 伝統、隆盛、苦境

 因幡(いなば)の国と呼ばれた鳥取県東部では、古くは奈良時代の生産品が現存するほど、その和紙生産の歴史は古い。戦国末期に入ると現在の鳥取市青谷地方や佐治地方で本格的に和紙の材料である楮(こうぞ)や雁皮(がんぴ)が保護され、和紙生産が奨励された。コメが作りにくい山がちな地形の因州でも生産できる和紙の材料は貴重だったのである。また、比較的栽培しやすい三椏(みつまた)の和紙への利用も江戸末期から始まった。この三椏を用いた和紙は、筆の運びが滑らかかつ墨もかすれずに長持ちすることから、書道や書画の画仙紙などに広く使われ、「因州筆切れず」の言葉が生まれた。

 青谷や佐治が産地として盛んになった理由について、「清らかで和紙に適した軟水が豊富にあり、楮・雁皮・三椏などの材料が栽培しやすい産地の自然環境のおかげ」と、今回訪問した生産者たちは口をそろえる。現在も水は川の伏流水をくみ上げたり、山奥から引いてきたりしている。

 このようにして和紙生産がさかんとなった青谷や佐治では明治に入ると古来の手漉(てすき)に加えて機械化も進み、書道や書画に使われる紙のシェアの6割を占めるようになり、ピークとなった大正期には生産者が1300社にも膨らんだ。しかし、それ以降は生産しやすく安価な洋紙の需要が増え、現在は二十数社にまで減少している。

 偶然発見、立体製法

 中原商店の中原剛さんは、2000年ごろからランプシェード用の和紙なども生産しており、他では作れない形状の和紙も漉(す)く。この中原さんが生み出したのが「立体漉き」である。つまり求められる立体的な形を紙を貼り合わせるのではなく、一体的に漉くのである。こうすると、継ぎ目のない美しい形ができあがる。2次元の紙を3次元で表現するという技術は、1300年の因州和紙の歴史でも初めてのイノベーションだ。これが生まれたきっかけは「茶こし」だという。

 「漉く前に不純物などを取り除くために茶こしですくうのだが、普段はそれを洗うところを忘れてしまった。翌日見ると、茶こしの形状に和紙の繊維が固まっていることに気付いた。そこから着想を得た」と中原さんは話す。大量生産の時代ではないため、職人に求められるのはオーダーメード、つまり無理難題が課せられる時代だからこそ生まれた気付きとイノベーションと言える。今、中原さんはこの技術を応用した照明などに事業展開を広げていっている。

 連携、青谷から世界へ

 青谷地方の職人たちが一体となって発信する活動も行われている。中原さんとともに活動する手漉き和紙の伝統工芸士の2人、西村信吾さんと長谷川憲人さんも訪ねた。西村さんは、海外に向けた販路開拓に取り組んでおり、スペインの木版画用紙として用いられていると言う。長谷川さんは地元デザイナーとアクセサリーなどにも和紙を応用する取り組みを進める。

 そして共同の取り組みで最も象徴的なのが因州和紙のサンプルブックだ。それぞれが作っている和紙について、日本語と英語で書かれているだけでなく、材料、製法、粘剤、漂白など和紙の質や価格などに影響する項目がしっかりと書かれている。長谷川さんは「因州和紙と一口に言っても種類も製法もさまざま。違いを理解し、用途に合わせて使い分けていただきたい」と話す。最近では因州和紙を用いた服も登場しており、その用途はどんどん広がっている。

 1300年の歴史と因州の自然で培われてきた素材と技術を受け継ぐ青谷の地から、世界を見据えた取り組みが始まっている。(「COS KYOTO」代表 北林功/SANKEI EXPRESS

 ■きたばやし・いさお 1979年奈良県生まれ。現代に受け継がれる多様な素材や技術、人を「京都」の感性で融合し、国内外に発信する「COS KYOTO」代表/コーディネーター。「TEDxKyoto」ディレクター。「因州和紙」のサンプルブックや立体漉きのサンプルはCOS KYOTOのショールームでも展示している。HP:cos-kyoto.com

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