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時代超える楽曲でグラミー受賞 セイント・ヴィンセント
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緻密に計算されたステージのようで、観客の中にダイヴするエネルギッシュな面も持つ=2015年2月20日、東京都渋谷区の渋谷クラブ・クアトロ(MASANORI_NARUSEさん撮影、提供写真) 第57回グラミー賞で「最優秀オルタナティブ・ミュージック・アルバム」を受賞したセイント・ヴィンセントが来日公演を行った。奇才デヴィッド・バーンとの共演を経て、自らのパフォーマンスにも同じ振付師を起用、ソロでも美意識に満ちたシアトリカルなステージを披露した。ライヴに先立ち話を聞いた。
「今の時代は機材のおかげで、誰でも音楽を作ろうと思ったら結構簡単に作れる。でも、時代を超える楽曲を作ること自体は決して楽にはなっていない。だから、私の楽曲が評価されたのではないかと思う。あとは私が7年間で4枚のアルバムを出し、数多くのツアーを行うなど、いろいろやってきた積み重ねの結果への評価ではないかしら」
何より一瞬聴いただけで彼女のギターだとわかる、ユニークなサウンドが魅力だ。叔父は卓越したテクニックを誇るギタリストのタック・アンドレス(タック&パティ)である。
「叔父の影響もあって、指で弾くことで可能な多様な表現を探求しているわ。さらにギターから出した音をいろいろ加工していくうちに、音がモンスターのようなキャラクターを持ってできあがっていく。アプローチとして私は単なるノイズメーカーでしかなく、ギターらしい音を出すことに全くこだわっていないの(笑)」
特に最新アルバム「セイント・ヴィンセント」は、「有機的なもの、つまり人間が弾いている音楽というものをいかに無機質な音にするか。鏡の向こう側を通して音楽を人間的ではないものにすること」がテーマだったそう。それゆえ「バース・イン・リヴァース」はギターで普通に作ったらありがちな曲になるからと、「自分自身の耳や脳、指をだますために、あえて変なチューニングにすることで、自分の慣れや弾き癖でギターを演奏しても違う結果が出てくるようにしたの。いろいろ試しながら作った曲よ」と話す。まるで実験のような作曲法だ。
「自分にとって曲作りとは、自分の知識と直感的に出てくるもの全てを歌という楽曲の形の中に共存させること。それらは必ずしもとても融合しているわけではないけれど、自分にとっては大きな発想を一番完璧にする表現形態で、その発想を伝える上での小さな媒介なの」
親しみやすいメロディーと異質なサウンドも共存している。彼女にしかつくることができない音楽がここにある。(音楽ジャーナリスト 伊藤なつみ/SANKEI EXPRESS)