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【佐藤優の地球を斬る】クリミア訪問 鳩山独自外交の論理

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【佐藤優の地球を斬る】クリミア訪問 鳩山独自外交の論理

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3月11日、ウクライナ南部クリミア半島の中心都市シンフェロポリで記者会見する鳩山由紀夫元首相=2015年(ロイター)  10、11の両日、鳩山由紀夫元首相が、ロシアによって併合されたウクライナのクリミア自治共和国を訪問した。日本政府は、ロシアによるクリミア併合を認めていない。首相経験者である鳩山氏がクリミアを訪問し、現地で公職に就いている人々と会見することは、日本がクリミアに対するロシアの統治の合法性を認めることにつながりかねないので、外交的には好ましくない。しかし、鳩山氏はそのようなことは十分承知した上で独自外交を行っている。11日、クリミアで行われた記者会見で、鳩山氏はこう述べた。

 日本政府の立場に沿わず

 <鳩山氏は、今回の訪問が日本政府の立場に反するとして批判が出ていることについて、次のように答えた。

 「日本政府は基本的に欧米とくに米国の意向を気にするものですから、クリミアの問題に関して欧米と同じ対応をするということで現在制裁を加えている立場にあります。その立場からすると、制裁をしている状況の中で、日本人がクリミアに行くのはけしからん、というふうに政府は思っているかもしれません。

 しかし私は外交というものは幅広く考えるべきであって、必ずしも外務省の考えだけが正しいとは思っていません。むしろ正確にこの地域の人々の気持ちというものを理解をして、平和裏に問題を解決していったクリミアの皆さん方が、希望してロシアに編入されたという事実を日本の皆さんにもっと知っていただくことこそが私たちがやるべきことではないかと思います。その思いのもとで、必ずしも政府の立場に沿ってはおりませんが、むしろだからこそ来る価値があると、そんな思いのもとで、みんなやって参っております。」>(3月12日 露国営ラジオ「ロシアの声」日本語版ウエブサイト)

 大多数のクリミア住民がロシアへの帰属を望んだのが事実であるとしても、ロシア軍が介入して行われた住民投票は国際法に違反する。興味深いのは、東ウクライナに関する鳩山氏の発言だ。<鳩山氏は続けて、ウクライナ東部の状況や、ルガンスク人民共和国とドネツク人民共和国が世界に認められる日がくるだろうか?という質問について、次のように語った。

 「一番大事なことは、民族、その地域に住んでおられる皆さん方の意向が最終的に認められる状況というものをつくるということをできるだけ早く実現することが国際的な国々のやらなければならない責務だと思っています。ウクライナ東部で起きていることは大変な悲劇だと思っています。私ども日本人の多くは、東ウクライナとクリミアで起きていることが全く違っていることを理解していないと思っています。その意味でも、私たちがクリミアに来させていただいた意義があると思っています。大事なことは武力ではなく対話によって問題を解決するという努力を極力積極的に両者が行うようになる(ことだ)と思っています。」>(前掲「ロシアの声」

 クレムリンの見解を代弁

 鳩山氏は、ロシア編入を求めるウクライナにおける親露派の立場とは一線を画している。鳩山氏が主張する「一番大事なことは、民族、その地域に住んでおられる皆さん方の意向が最終的に認められる状況というものをつくるということをできるだけ早く実現すること」という考え方は、ウクライナのドネツク州、ルガンスク州に中央政府の統治が及ばない地域を作り出し、そこで住民投票を行い、「一国二制度」のような連邦制を実現するというシナリオにつながる。まさにクレムリン(ロシア大統領府)の見解を鳩山氏は代弁しているのである。

 東京におけるロシアの積極的なロビー活動が、このような形で実を結んだのだ。ロシアのインテリジェンス能力を軽視してはならない。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

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