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【安倍政権考】放置されていた「歪んだシビコン」

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【安倍政権考】放置されていた「歪んだシビコン」

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陸上自衛隊第1空挺団の降下訓練始めを視察、双眼鏡を手にする中谷元(なかたに・げん)防衛相=2015年1月11日、千葉県船橋市・八千代市の習志野演習場(酒巻俊介撮影)  安倍晋三首相(60)は、防衛省設置法を改正して自衛官(制服組)と「文官」である防衛省内局官僚(背広組)が対等な関係で防衛相を補佐するように改める。現行の防衛省設置法12条は、背広組が制服組より優位に立つ「文官統制」として機能してきたと捉えられてきた。これを見直すことに対し、一部には「文民統制(シビリアンコントロール)」が弱体化し、「制服組暴走の抑止低下」につながると危険視する声も聞かれるが、適切さを欠いた指摘と言わざるを得ない。

 防衛省設置法を改正

 「全くない」

 菅義偉(すが・よしひで)官房長官(66)は6日の記者会見で、12条を改正することによってシビリアンコントロールが弱まる懸念を言下に否定した。

 現行の12条では、防衛相は内局の官房長や各局長の「補佐」を受け、自衛隊の各幕僚監部に指示や承認を行うと規定している。この規定が根拠となって、文官が自衛官に対して優位性を持ち、シビリアンコントロールを強めることの必要性が強調されてきた。

 だが、シビリアンコントロールの意味は、「政治」が「軍」を統制するということだ。有権者が選んだ政治家が自衛隊をコントロールし、政治が軍事に対する優位性を保つことであって、文官統制とは意味が異なる。だが、12条の規定が残り続けたことで、内局が自衛隊を支配するかのような「文官統制」がはびこり、いつしか「歪(ゆが)んだシビコン」といわれるようになった。

 12条の改正案では、制服組と背広組を“車の両輪”として、統合幕僚長や陸海空3幕僚長が「軍事的見地」から、官房長や内局の局長、新設される防衛装備庁長官が「政策的見地」から、防衛相を補佐すると改める。

 文官統制は自衛隊の「軍事的合理性」を損なってきたとの指摘もある。自民党国防族の一人は「軍事は軍事の専門家に任せなければいけない」と、その弊害を苦々しい思いで見つめてきただけに、12条の改正は念願の一つでもあった。防衛出動や、武装勢力の離島上陸など一刻を争うグレーゾーン事態に際し、制服組が中心となって迅速に対処することが可能になるためだ。

 92%「自衛隊に好印象」

 12条の改正により、あたかもシビリアンコントロールのタガが外れ、制服組が暴走するかのような批判が聞かれる。

 だが、7日に公表された内閣府による「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」で、自衛隊に好印象を持つ回答が92.2%に達した。東日本大震災での献身的な救援活動が理由にあるのはもちろんだが、自衛隊が規律正しい組織であり、常に抑制的であるという姿勢が国民に受け入れられている。文官優位が解消されることを持って、自衛隊が「暴走」するかのような批判は、多くの国民意識と乖離(かいり)しているのではないだろうか。

 また、「文官」である背広組も、制服組と同じく「自衛隊員」であり、シビリアンコントロールの対象であるのだ。

 自民党は自衛官の処遇改善の一環として制服組トップである統幕長を「認証官」にするよう政府に働きかけている。

 「現場の隊員は名誉と誇りがあれば、それがたとえ危険な任務でも首相の命令に従い、任務完遂に全力を尽くす」

 昨年4月の参院本会議で、元陸上自衛隊幹部で自民党の佐藤正久氏(54)はこう訴えた上で、統幕長を認証官とすることを安倍首相に要求した。

 だが、これに待ったをかけているのが背広組だといわれる。別の自民党国防族は「自衛官だけが認証官にされるのは、内局にとってはおもしろくないんだろう」と指摘する。これも背広組が制服組の上位に立つという「歪んだシビコン」が根底にあるためといえる。(峯匡孝/SANKEI EXPRESS

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