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【安倍政権考】人質殺害 急務の情報機関創設

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【安倍政権考】人質殺害 急務の情報機関創設

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2013年1月25日、アルジェリアのテロ事件で犠牲となった日本人の遺体が帰国。関係者が献花し、黙祷を捧げた=東京都大田区・羽田空港(大里直也撮影)  イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」に日本人2人が殺害されたとみられる事件は、日本が「独自の情報」を持たない現実を改めて突きつけた。米中央情報局(CIA)のような組織がない日本は、国際テロの脅威に対峙(たいじ)するにしても、他国の情報に頼らざるを得ないのだ。安倍晋三首相(60)は、これを教訓に、「日本版CIA」ともいわれる対外情報機関の創設に踏み切ることができるのか、注目される。

 「死活的に重要」

 「どの国もテロの脅威から逃れることができない。関係国や組織の内部情報を収集することが死活的に重要だ。しかし、こうした国や組織は閉鎖的で内部情報の収集には相当の困難が伴う」

 首相は4日の衆院予算委員会で、イスラム国による事件を受け、国際テロに対処するための情報収集の重要性を、こう説明した。対外情報機関の設置に関しては「さまざまな議論があると承知している」と述べるにとどめたが、創設を視野に入れているとみていいはずだ。

 首相は第2次政権発足間もない2013年1月にも危機対応に追われた。日本人10人が犠牲になったアルジェリア人質事件だ。このときも現地の情報が限られるばかりか、首相官邸にもたらされる情報は錯綜(さくそう)した。首相は、こうした危機のたびに「情報不足」を痛感するとともに、その重要性を認識してきたはずだ。

 首相はイスラム国による事件を受けて、「ヨルダンは極めて情報収集能力が高い」と述べ、海外で情報収集に当たる防衛駐在官を新たにヨルダンに置くことを検討する考えをすでに明らかにしている。各国の駐在武官(防衛駐在官に相当)は世界各地で軍人同士の「情報サークル」を形成しており、「軍の情報機関は同じ軍人にしか情報を渡さない慣習がある」(首相)ためだ。

 だが、防衛駐在官を増員したところで、日本独自の情報をつかめるわけではない。

 欠かせぬ「人的」

 日本に対外情報機関がないことは、外交・安全保障上の欠陥と指摘されてきた。閉鎖的な北朝鮮や構成が解明しにくい国際テロ組織の動向把握には、特定の人物に接触し、人的なネットワークを通じた内部情報の入手が欠かせない。いわゆる「ヒューミント」(人的情報)だ。

 イスラム国の事件を受けて、対外情報機関の創設に向けた動きも見られる。元防衛相の石破(いしば)茂地方創生担当相(58)は「情報収集する組織をきちんとつくることに取り組むかどうかだ。早急に詰めないといけない」と語り、検討を急ぐべきだとの考えを示した。また、自民党のインテリジェンス・秘密保全等検討プロジェクトチームは10日の幹部会で、創設に向け、有識者からヒアリングを始める方針を決定した。

 自民、公明両党は昨年4月、特定秘密保護法をめぐり、対外情報機関の創設に向けて協議を進めることを確認している。だが、これまで事あるごとに対外情報機関の新設が浮上してきたが、実現には至っていない。

 「情報」は日本の外交力と防衛力を補い、国際社会では、それを持つ者と、持たざる者の差は歴然としている。日本独自の「情報」を持つことができれば、相手の情報機関と交わす情報の「質」も向上する効果が期待できる。

 首相は「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を掲げ、積極的な首脳外交を展開してきた。ヨルダンやトルコの首脳と緊密な関係を築き、イスラム国への対処では「普通では考えられない」(首相周辺)ほどの厚遇を受けてきたとされる。これは“安倍外交”の成果と評価するのが常識的だ。

 だが、国際テロの脅威は時も場所も問わない。相手の「好意」や「友情」だけに頼り切るのは現実離れしている。やはり日本独自の情報が必要なのである。(峯匡孝/SANKEI EXPRESS

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