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【安倍政権考】菅氏 沖縄県民の心動かせるか
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沖縄県知事選で当選を確実にし、米軍普天間飛行場の名護市移設反対でタッグを組む稲嶺進名護市長(手前)とカチャーシーを踊る翁長雄志(おなが・たけし)氏=2014年11月16日、沖縄県那覇市(共同) 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)の沖縄県名護市辺野古(へのこ)への移設を争った沖縄県知事選は、辺野古移設に反対する前那覇市長の翁長雄志(おなが・たけし)氏(64)が初当選した。安倍晋三政権は対米公約の辺野古移設を粛々と進める考えだが、翁長氏の動向次第では移設工期に遅れが生じかねない。また、安倍政権への批判は県内全域に波及しつつある。安倍首相の参謀であり沖縄問題を担う菅義偉(すが・よしひで)官房長官(65)は、「沖縄の危機」にどう立ち向かうのか。
知事選から一夜明けた17日、菅氏は記者会見で「辺野古移設は米軍の抑止力と普天間の危険除去をあわせた中で唯一の解決策だ。普天間の固定化は絶対避けなければならない。一日も早い移設が実現できるように努力する」と述べ、従来通り移設を推進する考えを示した。
菅氏は、住宅地に囲まれ、「世界一危険な基地」といわれる普天間の危険除去は「政府と沖縄県の共通認識だ」と強調した。その上で、辺野古移設に反対する翁長氏を念頭に「反対の方は(普天間の固定化について)説明する責任がある」と批判してきた。菅氏の懸念は、普天間の固定化に加え、在沖縄米海兵隊のグアム移転や米軍嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)以南の米軍施設、区域の返還スケジュールが停滞することだ。
菅氏は9月の内閣改造で沖縄基地負担軽減担当相に就任し、辺野古移設の主導的立場にいる。安倍政権は沖縄振興予算を手厚く配分してきたが、菅氏は17日の会見で「振興策はバラマキではない。当選した方がどう考えているのか見極めた上で、政府として行うべきことは行っていく」と述べ、翁長氏の対応次第では方針変更もあり得ることをにじませた。
翁長氏は当選後、「知事権限を行使する。辺野古沿岸部埋め立て承認の撤回を視野に動く」と表明し、知事就任後は仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事(75)が昨年12月に政府の辺野古埋め立て申請を承認した経緯を検証し、撤回や取り消しの方策を検討する考えだ。
とはいえ、知事権限で取り消しや撤回を行う規則はない。翁長氏が取り消しや撤回に動いたとしても、行政訴訟を起こすことができ、「勝訴できる」(自民党関係者)と見込む。しかし、地元の反発や抗議活動が激化するのは確実であり、政権としてはできるだけ回避したい選択肢だ。こうした事態を避けるため、菅氏は翁長氏の真意を探り、交渉のタイミングを計ろうとしている。
辺野古移設反対を掲げた翁長氏は、知事選で共産、社民両党など革新系から多大な支援を受けた。だが、翁長氏はもともと自民党沖縄県連幹事長を務めた保守政治家とされる。政府・自民党内には、翁長氏がまったく政治信条が異なる革新系ではなく、同じく保守政治を歩む知事になるのではないかとの期待感がある。
ただ、知事選で支援した革新勢力が翁長氏に対する影響力を強めれば、普天間移設阻止に向けた行動を強く迫る可能性もある。菅氏らは正直なところ、翁長氏の真意を読めずにいるようだ。
安倍政権は12月の衆院選で、普天間の固定化回避や基地負担軽減、重点的な沖縄振興策などを訴える見通しだ。だが、知事選と同日だった那覇市長選でも自民、公明両党の推薦候補が敗北した。与那国町では陸上自衛隊施設の配備計画の是非を問う住民投票条例が可決された。衆院選で沖縄県の民意が完全に離反する結果が出れば、日米安保体制に支障が出かねない。官邸の危機感は強い。
菅氏が政治の師と仰ぐ梶山静六元官房長官(1926~2000年)は、沖縄に政治生命をかけたと評価されている。菅氏は常々、「沖縄に寄り添う」という言葉を口にする。菅氏は翁長氏の心を動かせるか。(峯匡孝/SANKEI EXPRESS)