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【まぜこぜエクスプレス】Vol.49 自閉症の不思議な世界(4) GOMESS×Paranel
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(右から)GOMESS君、Paranelさん、一般社団法人「Get_in_touch」理事長の東ちづる=2015年3月4日(小野寺宏友さん撮影) 自閉症とともに生きるラッパー、GOMESS(ゴメス)君と、彼が所属する「LOW HIGH WHO? PRODUCTION」(ローハイフー)を主宰するParanel(ネル)さんは、音楽仲間であり、仕事のパートナーであり、かけがえのない親友でもある。真摯(しんし)に言葉を発信し続ける2人にその出会いの物語を聞いた。
ネルさんは、ミュージシャン&プロデューサーとしてだけでなく、画家として、映像作家として、アニメーターとしても活動する多彩な人だ。主宰するローハイフーは、クラブ文化は苦手ながらも、音楽としてのヒップホップを愛する人たちが集う新しいコミュニティー。2006年の創設から9年目で、30人ほどのアーティストが所属している。
ゴメス君は立ちあげ間もない07年からローハイフーの大ファンで、不登校だった頃にもネットの更新を楽しみにしていたという。一方、ネルさんにとってもゴメス君は気になる存在だったそうだ。「高校RAP選手権なんかの噂を聞いてネットで写真をみたら、顔がすごく良くて…。人に何か与える顔だと思った」と告白する。当時、まだゴメス君は長いトンネルの中にいたらしいが、「僕はまず音楽よりも先に、人間を好きになってしまうんです」というネルさんにはピンとくる何かがあったのだろう。
ちょうどゴメス君を一躍有名にしたラップ「人間失格」が発表され、「そろそろアルバムつくろうか」と連絡をしたネルさんに、ゴメス君は「いつでも死ねるので生きている間、尽くします」と、ひたすら感謝の言葉を記した長文のメールを送ったという。「あの時は不思議な引力があったね。物語みたいな感覚がある」と、ネルさんは穏やかにほほ笑む。
話を聞いていると、出会うべくして出会った、必然だったと思うほかない。磁石のS極とN極のようにひかれ合ったのだろう。2人の会話はとても面白い。音楽にとどまらず、食べ物の好き嫌い、生き方、自閉症と、会話のテーマは脈絡なくコロコロと変わる。斬新だったり、哲学的だったり、バカバカしかったり…。聞いていて飽きない。勉強にもなる。
気づくと、2人の年齢差は13歳。だが感じさせない。本人同士も全く感じないという。自閉症のアーティストとプロダクションの主宰者と聞くと、ネルさんがゴメス君の支援者のように思うかもしれない。それは見事に裏切られる。「レコーディングの途中でつい僕が寝てしまって、起きたらゴメスがいなくなっていて、置き手紙があった。その内容に感動したので今でも宝物としてとっている」と、ネルさん。
意外なことも聞いた。スケジュール管理などはゴメス君のほうが得意で、ほとんど自分で管理しているのだという。2人はお互いに支え合っている。
「出会ってからゴメスは著しく変わった」と、ネルさんは目を細める。「人を守る意識が高くなったというか。周りの人のことをすごく大切にしている。それに、すごく、すごく、感動する」。ゴメス君自身も、自分の変化を意識している。「僕なんか死んでいるようなものなんで、生きようとしている人を守りたい」と話す彼の瞳は強い光を放つ。
実はゴメス君は長い間、「どうせ楽しく生きられないんだったら、生きてること自体が資源の無駄遣いだから死んだ方がいい。エコじゃない」と、自分を許せず苦しんできた。今や大注目される20歳のアーティストとは思えないネガティブな言葉だが、「エコじゃない」と表現するところが彼らしい。何かしら“かわいらしさ”が見え隠れするのだ。
そんな彼を救ったのが音楽だった。
「自分を許せると、世界も許せるから、楽なんです」。今、彼は「人のために何かする、苦しむのが好き」と言い切る。「自分のことで悩むのは無駄。悩んでも仕方がない。でも、人のことで悩むのは無駄じゃない」。
あふれる言葉を書き留めたノートの文字も、丸くなったのだとネルさんが教えてくれた。ノートには考えたこと、思いついた言葉、そして出会った人たちの寄せ書きが記されている。何年後かには、きっと宝物になるだろう。
インタビューの後に残ったのは、あたたかい愛だった。やさしさだった。(女優、一般社団法人Get in touch代表 東ちづる/撮影:小野寺宏友/SANKEI EXPRESS)
「生きること」について考えていた軌跡がうかがえる、GOMESSの2ndアルバム『し』が3月18日リリース。
4月2日のWarmBlue Day「MAZEKOZE LIVE」にも出演(午後6時15分~9時、東急プラザ表参道原宿6F「おもはらの森」、入場無料)