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「確実な帰国実現以外望んでいない」 拉致家族会、首相と1年ぶり面会

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「確実な帰国実現以外望んでいない」 拉致家族会、首相と1年ぶり面会

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安倍晋三(しんぞう)首相(左)と面会する拉致被害者家族会代表の飯塚繁雄さん(右端)ら=2015年4月3日、首相官邸(酒巻俊介撮影)  安倍晋三首相は3日、拉致被害者家族会のメンバーと官邸で会い、「全ての拉致被害者が日本の地を踏むことができる結果を出すために、あらゆる手段を尽くす」と述べ、拉致問題解決への決意を示した。家族会が中心となって首相と官邸で正式面会するのは昨年3月以来、約1年ぶり。首相は、北朝鮮が2日に日朝協議を中断する意向を通知してきたことに、「容認できない」と表明。日本政府は3日、北朝鮮側に抗議した。家族会のメンバーは、面会後に国会内で記者会見し、難航する日朝協議にいらだちの声を上げた。首相への信頼感をにじませつつ、「再調査より被害者の帰国を」と訴えた。

 首相は面会の冒頭、北朝鮮の通知について「わが国としては全く受け入れることはできない。今後とも毅然とした姿勢で対応に当たる」と明言。拉致再調査をめぐり北朝鮮側から具体的な情報を含む結果が提示されていないと説明し、「安倍政権にとって拉致問題の解決は最重要課題だ。解決しなければ、北朝鮮が未来を描いていくのは困難だ」と強調した。

 政府は、拉致問題の進展が最優先として、日朝間で合意した夏までの調査期限を守るよう迫る方針だ。しかし、北朝鮮側は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)幹部への捜査などに反発している。

 家族会の飯塚繁雄代表は首相との面会で、「焦って報告書を受け取る必要もない。被害者の確実な帰国の実現以外、望んでいない」と要請した。

 面会後に会見した横田めぐみさん=失踪当時(13)=の母、早紀江さん(79)は「拉致被害者の再調査報告だけに期待するのではなく、北朝鮮が被害者を帰国させる気があるのかが最大の問題。(政府は)はっきりと向こうに伝えてほしいと申し上げた」と語った。父、滋さん(82)は「気長に待つしかないのか」と落胆した様子だった。

 増元るみ子さん=失踪当時(24)=の弟、照明さん(59)は、この1年を振り返り「(拉致問題に熱心な)安倍政権での状況に、非常に失望している。今後も期待できるか分からないが、被害者救出に向けて動いてほしいとの願いは変わらない」と述べた。

 松本京子さん=失踪当時(29)=の兄、孟さん(68)は「結果的に何も出てこなかったのだから、交渉の仕方を変えたらどうか」と政府側に提案したことを明かした。松木薫さん=失踪当時(26)=の姉、斉藤文代さん(69)も、家族の高齢化が進んでいることを受け「再調査より(被害者が)帰国できるほかの道をしっかり考えて」と注文したという。

 再調査実施は昨年5月に日朝が合意し、北朝鮮が7月に特別調査委員会を設置。しかし当初昨年秋に見込まれた初回報告も実現しておらず、日本政府は3月末、独自の経済制裁を2年間延長した。

 ≪「政府への不満は限界」 亀裂回避図る≫

 北朝鮮が朝鮮総連トップへの強制捜査に反発し日朝協議の中断意向を日本に伝えるなど、交渉が進展しない中、拉致被害者家族会の一部からは安倍首相への不満も漏れる。首相が家族会と面会したのは、官邸と家族会との亀裂が生じることを避けるためでもあった。国内の足並みの乱れは北朝鮮の思うつぼになりかねない。

 北朝鮮の中断意向は、家族会の不安をあおり、首相側との分断を狙う宣伝工作であることは明白だった。

 首相は3日、家族会のメンバーを前に「一刻の猶予も許さないとの思いで交渉にあたっていく」と強調、「それぞれの思いを伝えていただきたい」と呼びかけた。

 家族会の一人は3月上旬、自民党中堅議員に電話し、「官邸前で座り込みをしようと思います」と述べ、日朝交渉の成果がないとして官邸前で抗議のデモを計画していることを伝えた。説得によりデモは見送られたが、この中堅議員は「家族会の一部が抱える政府への不満は限界に来ている」と語る。

 今回の面会にあたり、政府内には当初、「成果がない段階で面会すれば、首相が家族会から突き上げられるだけの場になる」と慎重な声もあった。しかし、面会拒否となれば家族会の不満は増し、結果として北朝鮮を利する形になる。首相は面会に応じ、不安払拭を図ることを選択した。

 首相には、したたかな計算もあった。政府は3月31日の閣議で、日本独自の対北朝鮮制裁措置を2年間延長することを決定。3月26日には、京都府警などの合同捜査本部が朝鮮総連の許宗萬(ホ・ジョンマン)議長宅などを家宅捜索した。政府関係者は「首相は強い姿勢をアピールできるタイミングで面会に応じた」と明かす。

 首相との面会を終えた家族会からは「失望感を拭い去るものはなかった」という厳しい声も出たが、家族会の一人はこう言い残し、官邸を後にした。

 「とにかく首相に会うことが大事だ。結局、私たちは首相にすがるしかない」(石鍋圭/SANKEI EXPRESS

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