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関電誤算 燃料費増で再々値上げ現実味 高浜原発、福井地裁が再稼働認めず

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関電誤算 燃料費増で再々値上げ現実味 高浜原発、福井地裁が再稼働認めず

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福井地裁が再稼働を認めない仮処分を下した関西電力高浜原発3号機(手前右)、4号機(手前左)=2014年11月27日、福井県大飯郡高浜町(本社ヘリから撮影)  「新規制基準まで否定されてはどうしようもない」

 14日午後2時すぎ、福井地裁の樋口英明裁判長が関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転差し止めの仮処分を言い渡した後、報告を受けた関電幹部は表情をこわばらせた。

 格段に重い仮処分

 東京電力福島第1原発事故後、司法が原発の運転差し止めを妥当としたのは2例目。前回は昨年5月に福井地裁が関電大飯原発3、4号機(福井県)の運転差し止めを命じた民事判決だ。

 いずれも担当は樋口裁判長で、今回は高浜について「万が一の危険という領域をはるかに超えている」と指摘した。原子力規制委員会が安全を確認した原発から順次稼働するとの政府方針に真っ向から対立しただけでなく「新規制基準は緩やかに過ぎ、合理性を欠く」とまで言い切った。

 これで手続きが最終局面に入っていた高浜の再稼働が暗礁に乗り上げ、産業界からは「ゼロリスクをいわれたら飛行機も電車も動かせない」との声が上がる。

 ただ、昨年5月の民事判決と同じ判断とはいえ、関電にとっては今回の仮処分は格段に重い意味を持つ。

 大飯の判決は確定まで法的効力が発生しない内容だったため、関電が控訴した時点で実質的に効力を失った。だが差し迫った事態に対応する仮処分決定は、判断が覆るまで効力を持つ。民事訴訟に詳しい冨宅恵弁護士は「樋口裁判長による審理を狙ったとみられる原告の戦略に関電が完敗した」と指摘する。

 赤字回避に悲壮感

 「2015年度も再稼働が難しくなっても再々値上げはないでしょうね」。1月、経済産業省。関電の震災後2度目の電気料金の値上げを審査する有識者会議で、ある委員が関電の八木誠社長にこう詰め寄った。

 「訴訟などの理由で(原発停止が)長期化すると総合的な判断が必要」。八木社長は将来的な再々値上げを完全否定できなかった。

 関電は13年春に震災後初めて電気料金を値上げし、家庭用で平均9.75%引き上げた。今回は家庭用で平均10.23%の値上げを申請。単純合算で2年で20%もの電気料金の上昇だ。企業用は計約34%上がり、電気料金の負担増が市民生活や企業経営を圧迫し続ける。

 関電は再稼働の遅れで悪化する財務基盤を再値上げで改善する考えだ。火力発電所の燃料費増加などで15年3月期の連結最終損益は1610億円の赤字の見通しだ。関電は、再値上げをした上で11月に高浜を再稼働すれば、赤字は回避できると想定していた。だが、仮処分に対する異議申し立ての審理は1年近くかかる恐れもあり、関電のシナリオを狂わせていく。

 再稼働が想定以上に遅れれば、火力発電所などの修繕費の削減まで迫られかねず、「赤字回避には火力などの安全面を多少犠牲するくらいしないと、うちは終わる」。関電首脳の言葉に悲壮感が漂う。

 ≪高浜町長「土俵違う」「私自身の責任で判断」≫

 福井地裁の仮処分決定について、福井県高浜町の野瀬豊町長は14日、報道陣の取材に「司法と行政の判断は土俵が違う」とし、自身が行う再稼働可否の判断への影響は限定的との見方を示した。「私自身の責任で判断していくことに変わりはない」と強調した。

 3月20日に再稼働への同意を決めた高浜町議会の的場輝夫議長は「規制委の存在自体に疑義を挟む決定だ」と反発した。

 一方、福井県の西川一誠知事はコメントで「司法の判断であり、申し上げる立場にない。県としてはこれまで通り、安全確保を最優先に慎重に対応していく」とするにとどめた。

 高浜町内では早期の再稼働を求める住民らの間に失望感が広がった。

 「せっかく再稼働が目前に迫っていたのに」。町内で旅館を営む時岡明秀さん(57)は声に焦燥感をにじませた。

 原発作業員を主な客とする宿泊施設や飲食店などが多く、原発は町にとって欠かせない存在だ。高浜3、4号機の安全対策工事は一段落して“特需”は終わった。再稼働できない事態が長引くと、定期検査に携わる作業員(約2500人)が減少し、地元経済には大打撃となる。

 高浜3、4号機の早期再稼働を求める陳情に名を連ねたガソリンスタンド経営の田中康隆さん(58)は「仮処分申請時点(昨年12月)と原子力規制委員会が『合格』を出した今では状況が違う」。町の建設業関係者も「司法の暴走だ。地元の心情を全く鑑みていない」と厳しく批判した。(SANKEI EXPRESS

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