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【逍遥の児】無頼派・織田作を読んだ
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散りゆく桜が冷たい雨にぬれている。こんな日は部屋で本を読もう。「夫婦善哉(めおとぜんざい)」(岩波文庫)。無頼派と呼ばれた男、織田作之助(1913~47年)の短編集だ。表題作を始め十数編の作品が収められている。
「夫婦善哉」は、戦前の大阪が舞台。曽根崎新地の芸者、蝶子は、化粧品問屋の放蕩(ほうとう)息子、柳吉と出会う。柳吉は妻と子供がいるが、深い仲となる。2人は駆け落ちする。かい性のない柳吉はぶらぶら遊ぶ。蝶子が生活費を稼ぐはめに陥る。けんかが絶えないが、仲直りすると、ふたりそろって「なんぞ、うまいもん」を食べに行くのだ。
織田は大阪で生まれた。旧制第三高校(京都)に進学するが、病気で長期欠席。勉学意欲を失い、中退する。20代で文学を志す。仲間と同人誌を発行するが、順風とはいえなかったようだ。文学では飯が食えず、就職活動をしている。
作品「子守唄」や「湯の町」には若い新聞記者が登場する。その生態が妙にリアルなのだ。
実は一時期、大阪の新聞社に就職。記者をしていた。なるほど。自分の体験を折り込んでいるのか。
さて、先の「夫婦善哉」。難波の西洋料理店「自由軒」で卵入りのカレーを食べる情景が描かれている。
わたしが産経新聞社大阪社会部で仕事をしていたころ、「自由軒」という名にひかれて店に入った。自由民権運動が盛んだった明治時代の創業という。名物カレーを注文した。カレーとご飯を混ぜ合わせ、生卵を落としている。辛口だが、まろやかな食感。うまい。店内を見渡す。織田作之助の写真。額縁に入れて飾っている。左手を頭に添え、右手に万年筆。常連客だった。決まって名物カレーを食べたと伝えられる。額縁にはこう記されていた。
――トラは死んで皮をのこす。織田作死んでカレーライスをのこす。
短編集を読み終えた。なにげなくページをめくった。発行年月日が印刷されている。驚いた。2013年7月17日 第1刷。9月5日には第3刷。最近のことではないか。名作は時代を超えて読み継がれていくのか。もう1度、表題作を読み直した。(塩塚保/SANKEI E XPRESS)