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【ソーシャル・イノベーションの現場から】元受刑者の社会復帰を包括支援 再犯防止へ官民連携
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元受刑者の社会復帰と再犯防止には、働ける職場が不可欠だ=2015年4月8日(日本財団撮影) 「刑務所出所者らの円滑な社会復帰のため、官民が連携し支援を一層強化する」。こうした目標のもと、関係省庁や企業、民間団体が研究を重ねてきた「再犯防止を考える官民合同勉強会」の成果として、新たな更生支援が4月から動き出した。
出所後の社会生活は出所者にとって高い壁がたちはだかっているようなもの。この壁を越えなければ社会復帰は難しい。社会から閉ざされた施設の中では、会話も制限されているため、コミュニケーション能力や考える力が奪われていく。こうした問題点に注目し、施設と社会の差を教育・就労・住居・仲間作りの観点から埋める「中間的支援」を中心とした包括的な支援モデルである。
「再犯防止を考える官民合同勉強会」は、2014年7月に日本財団が立ち上げた。一般刑法犯に占める再犯者の割合が1997年以降上昇傾向にあることを背景に、法務省の協力のもと、官側からは厚生労働省、文部科学省、国土交通省などの官庁と、地方自治体から奈良県が参加。民間側からは企業(協力雇用主)、民間支援団体、自助グループ、専門家らが参加した。新たな更生支援モデルは、この勉強会の成果であり、最大40人程度の出所者・出院者を対象に、大阪・福岡の2カ所でパイロットプロジェクトが2015年秋をめどにスタートする。
更生支援モデルの特徴は大きく2つある。まず矯正施設にいる段階から、基礎学力・就労スキルのトレーニングを外部講師と連携して提供すること。「営業日報が書けない。帳簿がつけられない」といった基礎学力の不足により職場で苦労する出所者の課題を先取りするとともに、より実務に近い能力を求める企業のニーズにも対応したものだ。具体的には、建設現場の足場を組む作業の練習などが検討されている。施設内の取り組みに企業の視点が生かされるのは、官民連携の成果といえる。
2つ目は、本格的な社会復帰に必要となる「教育・就労・住居・仲間作り」という要素を一手に提供する包括的な支援策であることだ。出所者は「中間支援施設」と呼ばれる場所に住みこみ、そこから企業に通勤し、基礎学力習得や就労スキル訓練を引き続き受け、元受刑者らが運営する自助グループなどから仲間作りの支援を受ける。通勤先は、入所中に面接に出向き採用を決めた企業であり、出所者の「親」として、仕事面だけでなく生活面でも彼らに目を配る。
日本財団は、官民合同勉強会の発足に先立ち10年から再犯問題に取り組んでいる。例えば、13年には、企業が元受刑者に就労体験の機会を提供し、さらに彼らの「親」として業務外の生活も指導する「職親(しょくしん)」プロジェクトをスタートさせた。この経験が新たな更生支援モデルの構想に役立っており、職親プロジェクトを通じて広がった再犯防止に積極的な企業のネットワークは、新たな更生支援のモデルにもそのまま生かされている。
もちろん、これまでの経験が成功ばかりだったわけではない。元受刑者らの親となるべく名乗りを上げた職親企業たちも、彼らの職場定着率の低さに落胆を隠さなかった。自らが矯正施設に面接に出向き、採用を決めた相手が、仮出所後一度も出社せずに行方をくらませてしまったこともある。その会社の社長は「仮出所を得るためのまじめさのアピールに、自分たちが利用されているのではないか」といぶかった。職親プロジェクトへの応募はこれまで152人で、企業が提供する半年間の職場体験を逃げ出さず修了できたのは15人、企業での継続的雇用につながったのはわずか3人だ。
しかし、再犯防止を支える側がここで手を緩めるわけにはいかない。職親プロジェクトに最も早くから参加している会社の社長は「成功体験を積み重ねること、成功モデルを作ることが大事」とあくまで前向きだ。新たな更生支援モデルの対象者は、早ければ今年10月から中間支援施設に入居する予定だ。(日本財団 ソーシャルイノベーション本部 立石大二/SANKEI EXPRESS)