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【ソーシャル・イノベーションの現場から】「にっぽん文楽プロジェクト」 飲みながら食べながら気軽に鑑賞

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【ソーシャル・イノベーションの現場から】「にっぽん文楽プロジェクト」 飲みながら食べながら気軽に鑑賞

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一般公開前日の3月18日夜に行われた、お披露目公演の様子=2015年、東京都港区(日本財団撮影)  日本を代表する古典芸能である文楽をより多くの人に見てもらい、価値を再認識してもらおうと始まった「にっぽん文楽プロジェクト」。日本財団の笹川陽平会長が発案し、1億円以上を投資した壮大なプロジェクトが19日、六本木ヒルズアリーナ(東京都港区)での公演を皮切りにスタートした。各回限定300席のチケットを手にした観客は、野外に出現したヒノキ造りの本格的な文楽舞台での公演を、飲食自由という気軽な雰囲気の中で楽しんだ。

 舞台は、銘木の産地である奈良・吉野から切り出したヒノキをふんだんに使った、幅19.7メートル、高さ6.7メートルの本格的な文楽専用。太夫座、幔幕(まんまく)、櫓(やぐら)、客席も徹底的に本物にこだわり、すべてがこのプロジェクトのために造られた。設計を担当した田野倉設計事務所の田野倉徹也氏は、能舞台を専門に活躍している若手の設計士だ。唐破風の屋根のデザインにも凝り観客を驚かせたが、「屋外での公演スタイルの文楽舞台というオーダーに、当時の文献がほとんど残っておらず設計に苦労した」と話す。

 施工は「菜の実建築工房」が担当。伝統的な木組みの技法を用いた舞台の組み立てと解体を約1日で行うことができ、宮大工の技術の集大成が発揮されている。

 「遊芸」の雰囲気を味わって

 中村雅之・総合プロデューサーが、このプロジェクトのテーマとして掲げたのが“飲みながら食べながら文楽を楽しむ”というものだ。文楽は東京の国立劇場、大阪の国立文楽劇場が中心となり普及・継承活動のため公演を行っているが、公演中は飲食できない。今回のプロジェクトではむしろ積極的に推奨し、開放的な空間でお酒や特製弁当を片手に、気軽にくつろいで見ることができる。中村氏は「無形文化財の保護は国の役割。今回は遊芸の世界を味わっていただきたかった」と語る。「かつて文楽や能、歌舞伎でも料亭の料理をつまみながら鑑賞できるものもあった」。文楽ファンの人も、鑑賞したことがない人にも、その遊芸の雰囲気に浸りながら文楽に触れてもらおうというものだ。

 一般公開前日の18日の夜には経済界、芸能界など各界の著名人を招待したお披露目公演が行われた。笹川陽平会長は「修行を続ける技芸員は10年、20年の下積みが必要と聞いている。このスピードの速い現代社会で、このように伝統を守っていこうとする若い人たちがいる。このすばらしい日本の伝統芸能をもっと多くの人たちに知っていただきたい」と挨拶。安倍晋三首相からは「気軽に文楽に触れる機会を提供するこれまでにない大変画期的なものだ。この機会に日本文化の結晶とも言える文楽の魅力に、多くの方々に触れていただきたい」との応援メッセージが届いた。

 初心者でも楽しめるよう工夫

 19日から22日までの期間中、1日2回の公演が行われた。出演した人形遣いの吉田玉女さんは、人間国宝だった師匠の玉男を4月に襲名することになっており、玉女としての最後の舞台となった。演目は舞台披(ひら)きにふさわしく祝儀物の「二人三番叟」と道成寺物の名作「日高川入相花王 渡し場の段」。開演前には元NHKアナウンサーで古典芸能解説者の葛西聖司氏、作家・国文学者の林望氏、料理評論家の山本益博氏がそれぞれの視点で公演の楽しみ方について語り、床世話や大道具、黒子などの舞台裏の仕事も紹介された。演目の間には技芸員による人形、浄瑠璃、三味線についての解説も行われ、文楽初心者でも楽しめるよう工夫された。

 来場客にも好評で、着物姿で鑑賞していた長澤祐子さんは「ヒルズの上からも舞台を見ることができるのが面白い。通りかかっただけの人でも、文楽に興味をもったのでは」。畠山みゆきさんは「文楽を気軽な形で、しかも六本木という土地で見られるというスタイルは他にないので楽しみにしていた。次回公演もぜひお友達を連れ、追いかけて見に行きたい」と、満足そうに話してくれた。

 このプロジェクトは、2020年の東京オリンピックに向け、東京を起点として各地を巡回する。今年は10月に大阪での公演を予定している。東京公演のチケットを逃した人も、これまで文楽に触れたことのない人もぜひ一度味わってほしい。(日本財団 枡方瑞恵/SANKEI EXPRESS

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