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【世界自転車レース紀行】(26)タイ 酷暑のアジア 追い風うけ疾走

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【世界自転車レース紀行】(26)タイ 酷暑のアジア 追い風うけ疾走

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ラオスとの小さな国境の町をカラフルな自転車選手たちが走り抜ける=2015年4月5日、タイ・ノーンカイ(田中苑子さん撮影)  「ほほ笑みの国」と呼ばれるタイで4月1日から6日まで開催された「ツアー・オブ・タイランド」。UCI(国際自転車競技連合)認定レースの中では一番低い2クラスのカテゴリーとなるが、出場したのはアジアの主要チームすべてを含む全24チームと多く、また各ステージの走行距離も長いため、総走行距離は1000キロを超える本格的なステージレースとして開催された。

 日本からは愛三工業レーシング、シマノレーシング、マトリックスパワータグ、ブリヂストンアンカーの4チームが出場。

 連日35度を超える酷暑、ときおり現れる未舗装路や荒れた舗装。また今年は季節性のものか、毎ステージ強い風が吹く中で開催され、追い風が吹くと選手たちは平均時速50キロを超えるハイスピードでレースを繰り広げていった。

 レースが開催されるエリアは毎年変わり、今年は2月にアジア選手権が開催された地方都市ナコンラチャシマを起点にして、北上。ラオス国境のメコン川に沿って進み、最後はベトナム戦争時代にアメリカ軍が整備したというタイ北東部の街、ウドンターニでゴールを迎える。コラート盆地を行く平坦(へいたん)路だが、強い風がレース展開を複雑にした。

 また正式な大会名は、「マハー・チャクリ・シリントーン王女杯ツアー・オブ・タイランド」となっており、人気の高いタイ王室のシリントーン王女の名前が冠されている。大会期間中の4月2日はシリントーン王女の60歳の誕生日だったため、大会は終始、祝賀ムードに包まれた。

 ≪フェアプレーで日本人ワンツー≫

 ナコンラチャシマをスタートした第1ステージは、3選手が逃げ切る展開となり、沖縄出身で暑さにはめっぽう強いという内間康平(ブリヂストンアンカー)が優勝した。実は内間は、2月にナコンラチャシマで開催されたアジア選手権で優勝を狙っていたが、3位という結果に終わり、大きな悔しさを味わっていた。その悔しさを晴らすかのように今季初勝利を挙げ、総合成績首位の証しである黄色のリーダージャージに袖を通した。

 第2ステージから、内間のリードを守るべく、ブリヂストンアンカーがチーム一丸となって力強い走りを見せるも、連日の酷暑や激しい攻防戦から、徐々にチームに疲労の色が現れる。そして第4ステージでは、15人ほどの先行する選手たちを捉えることができず、その先頭集団に入っていた昨年の大会優勝者である中島康晴(愛三工業レーシング)が、総合成績を4秒差で逆転し、新しいレースリーダーとなった。

 第5ステージからは、中島と内間、日本人選手による総合優勝争いの展開となった。どちらも狙うのは総合優勝のみ。しかし、今後のリオ五輪などへの出場枠獲得に向けて、順位に応じて得られる「UCIポイント」をできるだけ多く稼いで帰りたいという日本勢共通の思惑もあるため、日本人選手による総合成績ワンツーを守ることも大切な使命となった。

 そして最終ステージの終盤、タイミングをうかがっていたブリヂストンアンカーが攻撃を仕掛けたが、中島がクラッシュするというトラブルがあった。しかし、ライバルがトラブルにより遅れたときには攻撃をしないという、ロードレース競技特有の暗黙のルールがあり、無事に中島が最後までリーダージャージを守り切り、見事に昨年に続く2連覇を達成した。

 クラッシュは大事には至らなかったものの、痛々しい傷を負いながら最後まで走った中島。「仲間に助けられて獲得した総合優勝は格別」と話し、フェアプレーに徹した内間との日本勢による総合成績ワンツーとなり、素晴らしい結果に終わった。(写真・文:フリーランスカメラマン 田中苑子(そのこ)/SANKEI EXPRESS

 ■たなか・そのこ 1981年、千葉生まれ。2005年に看護師から自転車専門誌の編集部に転職。08年よりフリーランスカメラマンに転向し、現在はアジアの草レースからツール・ド・フランスまで、世界各国の色鮮やかな自転車レースを追っかけ中。

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