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氾濫する模倣 「鳥」紛争に注目 渡辺武達

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氾濫する模倣 「鳥」紛争に注目 渡辺武達

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 【メディアと社会】

 大手焼き鳥居酒屋チェーンの鳥貴族(大阪市)が、看板や内装、メニュー、全品均一価格などが類似した店舗「鳥二郎」の営業で損害を受けたとして、運営会社(京都市)に対して、約6000万円の賠償と類似標章の使用差し止めを求める訴訟を大阪地裁に起こし、21日に1回口頭弁論が開かれた。

 この種の提訴はしばしばあり、素人目には「まねをするのはよくない」という考え方の一方で、「値段と質で客が選べばよい」といった意見もある。こうした焼き鳥チェーンが会社員や学生たちの飲み会に欠かせない大衆性を持っていることに加え、鳥貴族の社長の息子がアイドルグループのメンバーであることもあり、この訴訟は大きな話題になっている。

 「創造に結びつく」ケース

 法的には厳密な議論が必要だが、産業や文化の発展で、「模倣が創造に結びつく」ということが現実にはあるため、今回の訴訟は、メディアと社会の相関関係を検証する上で格好の素材だといえる。

 まず、両チェーン店の知名度だが、学生たちの間で鳥貴族は「トリキ」の略称で呼ばれ、親しまれている。一方、鳥二郎は、焼き鳥通の会社員たちの間で、鳥貴族より一品あたり10円安いことで知られる。ところが、両者が「姉妹店」だと誤解している者もかなりいる。

 こうした現状を考えると、鳥二郎は、鳥貴族の知名度と商法の「TTP(徹底的なパクリ)」と一般的にはいえるかもしれない。一方で、新しい技術を獲得しようとする後発の国や企業が模倣やコピーで参入する「リバース・エンジニアリング」(安価な類似物の製造販売)を行うことは、世界中で起きている。

 先日、中国の上海とアモイを講演で訪れた際、高級スーパーには輸入した日本産食品が多くあったが、庶民向けのコンビニなどには、日本産に似せたものがたくさんあった。

 ホテル近くでは、映画DVDや音楽CDのコピーが1枚数百円で売られていた。日本でもかつてこうしたコピー商品がたくさん売られていた。専門筋に聞くと、中国でのコピー商品の販売網は全国規模で、外国企業がその会社を買収するなどで、中国国内の正式な自社製品の販売に利用している例もあるという。

 また自動車から携帯端末、デジタルカメラ、腕時計などでは、先発他社のすぐれた新製品を分解し徹底的に研究し、特許違反すれすれで生産販売している。究極的には同業の競争相手の開発担当者を引き抜くという「頭脳」の買収も起きていることは、多国籍企業間の紛争としてしばしば話題になっている。また、映画や音楽の著作権保護は当然だとしても、米ハリウッドの利益保護が最優先され、保護年限の再延長が強者の論理でなされてきたことも事実である。

 倫理問題レベルの争いも

 一方、日本のテレビ業界では多くの局が他局の高視聴率番組をまねするものだから、類似番組のオンパレードとなっている。世界各地で活躍したり苦労したりしている日本人をリポートするという体裁の情報番組は、その典型で、筆者の所にも複数の制作会社からコーディネートの依頼がきている。

 今回の「鳥」紛争も、法的には知財(知的財産)紛争である。しかし、この知財は(1)技術の特許(2)デザインの意匠(3)ブランドの商標の3つに分かれうえに、今回の訴訟では、「鳥二郎」という店名はすでに法的な商標登録がなされている。内装やメニュー、全品均一などの類似店舗は、街を歩けば他にも目につくのが現実である。

 訴状によれば、鳥二郎は昨年4月以降、京都や大阪、神戸で12店を開店し、うち4店を鳥貴族と同じビルの真上か真下のフロアで営業しているといい、「さすがにそれはいかがなものか?」といった倫理問題のレベルの争いになってしまいかねない。もしかしたら自分たちも知らずに「鳥二郎」を使用していたかもしれない裁判官たちが、模倣が氾濫する社会的現実を踏まえ、どんな判断を下すのか。訴訟の行方を注目したい。(同志社大学名誉教授、メディア・情報学者 渡辺武達(わたなべ・たけさと)/SANKEI EXPRESS

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