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母親同伴で市民偽装 指令を待つ 「イスラム国」テロリストたちの証言
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クルド自治政府に拘束されているイスラム国メンバーのシャウカト容疑者=2015年4月14日、イラク北部(大内清撮影) イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」には、どのような人間が参加しているのか。産経新聞社は4月、イラク北部クルド自治政府の許可を得て、自治区内で拘束されているイスラム国の構成員たちと面会した。イスラム国が仕掛ける工作活動の実態などを明かした彼らの証言を紹介する。
イラク北部タルアファル出身のトルクメン系イラク人、シャウカト(23)が義理の兄弟に誘われてイスラム国に参加したのは昨年7月のことだった。
10日間の訓練期間を経て、クルド人自治区の中心都市アルビル攻略に向けた作戦やイラク有数の製油所があるバイジでの戦闘に参加。その間に「拘束したイラク治安部隊の捕虜10人を機関銃で処刑した」。
しかし、最後に与えられた役目は、それまでのものとは毛色が違っていた。
まず、クルド自治政府が実効支配する北部キルクークへの転居を命じられた。さらに、キルクーク近郊の工場での仕事を世話された。何らかの指令があるまで市民を偽装する「スリーパー・セル(潜伏工作員)」としての任務だった。
周囲に怪しまれないよう、母親を伴って部屋を借りた。支給された金は、3日ごとの手当として5万イラクデイナール(約5000円)。工場の給与を合わせれば収入は月1000ドル(約12万円)を超えた。貧しい村出身のシャウカトにとっては、大きな魅力だったとみられる。
自治政府の治安機関は今年3月にシャウカトを逮捕。その供述などを基に、自治区やその周辺に潜伏するイスラム国工作員や協力者の摘発を進めている。
イスラム国がメンバーの役割を細分化し、組織的に工作活動を行っていることも判明してきた。
当局からの制限で名前の頭文字だけ明かされたクルド人のA・S・J(30)は昨年8月23日、所有する小型トラックで自宅を出発した。
「キルクークへ向かえ」
イスラム国戦闘員の弟を通じて知り合った男からの指令だった。キルクークに到着すると、次はアルビルへ向かうよう命令され、その後、再びキルクークへ戻れと指示された。
詳しい説明もないまま、車で約1時間半のアルビル-キルクーク間を往復する奇妙な任務。「言われた通りにしていたら、最後は知らない男を1人、乗せて帰るよう言われた」
車中の会話でA・S・Jは、男がこの日、アルビル市内で起きた爆弾テロの実行犯で、自分はそれを逃がすために用意された「運び屋」の1人だったと知った。A・S・Jには後日、弟から「車代」として100ドルを手渡された。
「おれは悪くない」。自治区内の刑務所でインタビューしたA・S・Jはこう語った。テロに利用されただけだという主張だ。
では、なぜそのことを当局に通報しなかったのか。こう問うと彼は、むっとした表情で「それは、おれがイスラム国のメンバーだから-」と答えた。
A・S・Jはその後も、指令役の男らから、クルド自治政府の治安部隊ペシュメルガの基地への道案内や、治安機関幹部を監視する男3人を現場へ運ぶ役目などを与えられたという。
同じ刑務所で取材したもう一人のクルド人メンバー、N・A・M(36)も同様に、「自分は何もしていない」と繰り返した。しかし彼の場合も、イスラム国の知人から携帯電話を買い与えられるなどしたほか、その知人らに連れられて訪れた自治区の古都スレイマニヤの工場で昨年末ごろ、「爆発物を積んだ車を見せられた」と工作活動の一端を認める証言している。
インタビューに立ち会った取調官は取材後、「テロ準備を知りながら、自分は悪くないと主張する人間を信じられるわけがない」と、監房に戻る容疑者らをにらみつけた。治安機関とイスラム国は終わりなき戦いを続けている。(イラク北部クルド人自治区 大内清/SANKEI EXPRESS)